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Tritoma
「う~ん……、すでにヴェルフェマンと接触しているとして、まだ少年Aや骸に関係している子達がボコられたとか、そういう目立つ話は特に出てないんすよね~」
おもむろに携帯電話を取り出し、片手で素早く操作しながら液晶を見下ろすと、すでに集まっている情報を改めて確認していく。
しかし、今のところ他に目ぼしい出来事は起こっていないようであり、そもそもまだ明るみに出ていないだけなのかもしれないが、有仁が知らないということはまだ何も始まってはいないのであろう。
「用もねえのに夜な夜なあんなところへ行くような奴等じゃねえし、灰我達が居ることは知っていたはずだ」
「そうッスよね~。んで、真宮さんが居たことも絶対に知られてると思うし、俺らが駆け付けたのももうバレちゃってるっぽいッスよね~」
「その上で……、奴等がなんもしねえで出ていくなんて有り得ねえ……。灰我に会ってるのはまず間違いないはずだ。だが、魂胆が分からねえ……」
何とはなしに視線を向け、窓から見える景色を視界に収めながら、昨夜の出来事を思い返す。
望まぬ再会を果たし、漸から骸についての話をされたが、あの時点では次なる行動を把握していたとは考えにくい。
此方と同じように、灰我達が取るであろう行動を読みきれないながらも、純粋に状況を楽しんでいる様子が見受けられた。
そうして、手を出してきたら潰すとも言っており、いざとなれば本当に骸そのものを屈伏させることに躊躇いなんてないのだろう。
そのような彼等が、どういった経緯で聞き及んだのかは知らないけれど、灰我達がクラブから程近い公園に居るとの情報を得て、わざわざ自ら赴いている。
灰我と最後に言葉を交わした時点では、ヴェルフェとの接点はまだ無かった。
嘘をついている可能性も否定は出来ないだろうが、そこは真実を言ってくれていると信じたいし、そもそも戦いを仕掛けてヴェルフェから無傷で離れられるわけがない。
「俺らが頭を悩ませたところで、全ては想像の範疇でしかないッスね~。銀髪野郎はな~に考えてんだか……」
「あの野郎の考えてることなんて、想像するだけ無駄だ。誰にも理解なんて出来ねえよ。したくもねえしな……」
――俺のこと理解してくれるんだろう……?
自ら紡ぎだした言葉により、引きずり出されていく記憶がどっと圧し掛かり、悪夢のような一時に囁かれた台詞が稲妻の如く走り抜け、眉を寄せて小さく舌打ちする。
理解だと……?
出来るわけねえだろ、そんなこと……。
逃げずに向き合えだの、腹の底なんにも見せようとしねえ奴がふざけたことばっかぬかしやがって……。
ぎり、と歯噛みし、憎き敵対者を思い浮かべるだけで怒りが込み上げていき、身勝手な台詞を並べられて未だに腹が立つ。
理解されようとも、されたいとも思っていない。
はなからアイツは、誰にも期待なんかしていない。
見ていない、信じてもいない。
どれだけ優しげな笑みを湛えていようとも、冷え冷えとした双眸が全てを物語っており、漸にとっての他者が如何に無価値であるかが嫌味なほどに伝わってくる。
それなのに理解しろだと……?
隠し事ばかりの野郎がよく言うぜ。
「となるとやっぱり……、ここは少年Aから事情聴取するのが一番手っ取り早そうッスね!」
「そうだな……。このまま灰我達を放っておくわけにもいかねえしな……。足取り探って捕まえるのが一番早ェか」
「年端のいかないショタっ子を拉致ッスね、拉致! 超わくわくするッス!」
「なに目ェ輝かせてんだよ……」
「や、だって楽しそうな匂いがプンプンするんすもん!」
「はぁ~……、緊張感のねえ野郎だな……。ま、それがお前のいいところでもあるか。つっても大体は短所でしかねえけどな……」
「そこ一言多いんすけど~! 聞こえる程度にぼそっと言うのやめたげてッス!」
拉致は大袈裟だが、灰我の居所を突き止めて再会する必要があり、あまり悠長に構えてはいられない。
今のところはまだ、手遅れになるような事態には陥っていないと思うが、唐突に窮地を迎える展開も大いに有り得る。
相手はヴェルフェであり、漸の手により束ねられている群れが、このまま少年達を放っておくとは到底考えられない。
単純に傷付けることをせずに、何かもっと別の戯れを思い付いたに違いない。
短絡的に肉体を痛め付けるよりももっと、心身へと深手を負わせられるような遊びを。
「嫌な予感しかしねえな……」
伏し目がちにぼそりと呟き、去り行く灰我の後ろ姿を思い出しながら、安否が気になって仕方がない。
大丈夫だと言い聞かせても不安は拭えず、無事で居てくれていることを願うばかりで、どのようにヴェルフェとの対面が果たされたのかを考えてみる。
目的があるから近付き、遂行させる為の事を必ず起こそうとするであろうし、なんとしてでも悪辣たる思惑を阻止し、灰我を保護しなければならない。
一体どれだけ手傷を負わせれば気が済むのか、彼には他者を想う心が存在しないのだろうか。
考えても分からない、理解出来るはずがない、してやりたいとも思わない。
何がそんなに楽しく、何に突き動かされて、彼は冥暗をさ迷うのだろう。
「有仁くんネットワークを駆使すれば、灰我っちんの居所から恥ずかしい秘密までちょちょいのちょいだぜ!!」
「お前にだけは絶対秘密握られたくねえわ……」
「へっへっへ~! 調べてやろうか、真宮さんのいけない秘密~!」
「最期の飯になるかもしれねえな。味わって食えよ……?」
「探りません! 永遠に!! やだなあ、もう! しないッスよ、そんなこと~! どうせ真宮さんの秘密なんて大したことないし!」
「やっぱ飯食わずに眠っちまえよ、テメエなんか一生」
「ちょ、バキボキ拳鳴らしながら近付くのダメっすよ、やめて怖い怖い! マジ超怖いんすけど!」
「お前の暴言程じゃねえよ」
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