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Digitalis※

「はぁ、んっ……」 首筋を擦られる度、じんわりと甘やかな熱が広がっていき、どうしようもなく身体が火照っていく。 声を抑えきれず、だらしなく開かれている唇からは誘うように淫らな吐息が溢れ続けており、目を背けたい光景が今なお織り成されている。 緩やかに力を失い、貪欲に快楽を得んとする手は止められず、俯きながら背凭れに半身を預けている。 髪を触られても、頬を撫でられても、拒んでいる余裕なんて最早無くなっており、目蓋を下ろして悦楽を従順に享受している。 「気持ち良さそうだね。最近溜まってた……?」 「んっ……、はぁ」 「見られながらするのは初めて? 一人でするのとどっちが気持ちいい……?」 「う、るせぇっ……、あっ」 「ナキツの前でもしたの? なァ……、真宮。自分で弄りながらおねだりしたのかな」 「あっ、う、やめっ……ん」 耳元で囁かれ、急に自身へと指を這わされたかと思えば、先をくりくりと弄ばれて一際媚びた声が漏れてしまい、羞恥で頬が熱くなっていく。 やめてほしいはずなのに、他者からもたらされる刺激を易々と受け入れてしまい、もっと欲しがっているかのように蜜が湧き出てしまう。 「アイツがどんな顔して俺を見ていたか知ってるか……? すごく怖い顔して睨んでた。お前の事がよっぽど大切なんだね」 「はぁ、あっ……、や、め……、ん」 「そういえばまだ、事の真相を確かめてなかったな。それで……? ナキツ君ともえっちなことしちゃったの? 真宮……」 「んっ、はぁ、あっ……、やめ……」 「なァ……、どうなの? 教えてよ。どうせお前のことだから、迫られたら簡単に受け入れちゃうんだろ。気持ち良くなれるなら誰でもいいんだもんな、真宮ちゃんは」 「あっ、う……、ち、が……、ちがうっ……」 「だから何が違うんだよ。そろそろテメエの本性を認めたらどうなんだ? その方がずっと楽だろ? な……、真宮。我慢なんてしなくていいんだよ」 冷ややかに浴びせかけられたかと思えば、すぐにも優しげな雰囲気を湛えて言葉を操り、あの夜のように奈落へ叩き落とさんと悪魔が囁いてくる。 緩慢な動きで先を弄くられ、痺れるように甘やかな疼きが自身へと染み渡り、更なる熱を孕んで悩ましい吐息が漏れていく。 耳を貸してはいけない、分かっているはずなのに一言一句が鼓膜へと滑り込み、抗おうと苦しんでいる身には魅力的な誘いが降り注ぐ。 一度堕ちてしまえば、何度繰り返そうとも最早変わらない。 楽な道へ逃れようとする自分を引き戻し、この手に堕ちることだけはいやだと懸命に反抗し、鈍る思考を必死に奮い立たせている。 「また二人だけの秘密が増えちゃうね。お前は……、どんな顔してチームに戻るの? 都合良く忘れたふりをして、平然と戻るつもりか? この前みたいに……」 「あ、はぁっ……、黙れ……。テメエの、言うことなんか……、あっ、聞きたくねえ……、んっ」 「裏切るって楽しいよなァ。お前もとっくに同類だろ……? いつまで身綺麗な気でいるんだよ。堕ちてこい、真宮」 「はぁ、あっ……、ん、やめっ……」 縋るように腕へと指を絡めても、欲望に塗れさせるべく先を弄られており、それでも自身を滑る手を止められないでいる。 本当に嫌がっているのかも次第に分からなくなり、熱に浮かされて思考が疎かになっていき、ぐちゅぐちゅと一層淫らな音が其処からは漏れている。 もう二度と囚われたくはないのに、少しずつ後戻りの出来ない毒に蝕まれていき、どんどん元のあるべき居場所を奪われていくようで不安に駆られる。 それなのに悦楽を突き放せず、命令とは言え自身を弄んでよがっており、突き刺さるような言葉を浴びせられても否定出来ない。 譫言のように拒絶を繰り返すも、単に繰り返されているだけにとどまり、其処にあるべき気持ちなんて微塵も込められていない。 気持ちいいんだろ、気持ち良くて仕方がないんだろう。 幾度となく振り払っても纏わりつき、抗わずに堕ちてしまえそうすれば一気に楽になれると誘惑が蔓延り、後にも先にも絶望しか見えなくて途方に暮れる。 「これだけじゃ満足出来ないよな……? もっと気持ち良くさせてあげる」 正常な判断へと支障が生じ、それでも気力でなんとか耐え忍んでいると、不意に声を掛けられて漸に腕を掴まれる。 何がなんだか分からないままに漸が離れ、立ち上がったかと思えば引っ張られて体勢を崩し、絨毯が敷かれている床へと引き摺られていき、終いには押し倒されてしまう。 下ばきごと剥ぎ取られ、企みが見えない中で漸が自身へと触れてきて緩やかに扱き、淫らな蜜を掬い取っていく。 「あっ……、ん、や、めっ……、あ、あぁっ」 「やめてほしいって声じゃねえけど……? 此処、掻き回されるの好きだよな。だからこそ今日は、お前が自分で弄ってみせろよ。出来るよな……? もっと気持ち良くなれるんだから、嬉しいだろ」 「はぁ、あ……、そ、なの……、できるわけ……」 「出来る出来ねえじゃなくて、やるんだよ。そうやって嫌がるふりなんてしなくていい。本当は好きなくせに……、ほら、無理するなよ。どっちも弄ってごらん」 しゃがんでいる漸から視線を注がれ、これ以上ないくらいに屈辱的な命を下されて、憤りを感じているというのに押し退ける術すら無くて情けない。 簡単に従えるはずもなく、だが心変わりをしてくれる様子も有らず、手首を掴まれて嫌なのに誘導されてしまう。 「やめ……」 「大丈夫。すぐに何にも気にならなくなるよ」 「ぜんっ……、いやだ……」 「甘え上手だね。普段は滅多に呼んでくれないくせに、随分と可愛い声出すんだな」 「あっ、はぁ……、ん、んんっ……」 「ね……、大丈夫。何も怖いことなんてないだろ? どっちも弄って気持ちいいね。もっと見境無くしちまえよ。誰にも見せられないような姿を、俺だけにもっと見せて」 酷な行為を強いているというのに、優しげですらある笑みを湛えており、いざなわれるがままに指が呑み込まれていき、自慰と相俟って更なる疼きがもたらされていく。

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