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Digitalis※

「んっ……、く」 時おり手を止め、流されないように耐え忍んでも、吐息には確かな甘さが含まれている。 葛藤は止まず、それでも全てを押し殺して事へと及び、命じられるがままに奉仕を続けようとする。 しかし、悪戯な爪先が微かに触れてくる度に、ひくりと身が震えて気を逸らされてしまう。 いっそ、何もかも手放してしまえば楽になれる。 悪魔の囁きが脳裏を過り、我に返って直ぐ様いやだと黙らせるものの、身体はとうに抗い難い熱に浮かされている。 もう自分を見失うのは嫌なのに、委ねてしまえば苦しまなくて済むという想いもあり、何も考えたくはないのに思考がうるさく邪魔をしてくる。 「はぁ、んっ……、こんな、こと……、なんの意味がある……」 「意味……? そんなもんねえよ。あれば少しは気が晴れた? みっともなく尽くす自分をごまかすことが出来たかな」 「んっ……、は、あっ……」 「お前の事なんてなんとも思ってない。好かれても迷惑だからやめてね」 「誰が……、テメエのことなんかっ……、んっ」 やんわりと擦られる度に、目先の事から集中力を奪われて喘ぎ、それでもなんとか舌を這わせて愛撫していく。 突き放すような言葉を繰り返している割に、見下ろす漸の表情には笑みが湛えられており、片手で頭を撫でてくる。 時には頬や、指先で辿るように首筋へと触れ、こうしている時の手付きはやけに優しく、酷な事を強いている唇からも稀に気遣う台詞を発してくる。 真に受けるつもりなんてはなからないけれど、実際に考えている事がいちいち分からない男だと思う。 腹の底を読ませたくないから、こんなにも惑わせるような言動を繰り返し、尻尾を掴ませずに翻弄してくるのだろうか。 まるで近付かれることを怖がっているかのようだと、不意に湧き出た印象が目に留まり、どうしてそんな考えに至ったのかが分からない。 そんな繊細な奴じゃないと半ば強引に決め付けて散らし、一端すら読ませてくれない男に捕らわれながら淫らな行いを続け、猛りへと舌を這わせていく。 「そのまま自分で弄ってみせて」 不慣れな愛撫を続けていると、気紛れに無理難題を課されて一瞬動きが止まるも、命には答えずに奉仕を再開する。 目蓋を下ろし、諦めて右手を自身へと近付かせていき、包帯にも構わずに先走りを滴らせているそれへと指を這わせる。 「はぁ、あ……、ぅ」 待ち焦がれていた快楽を再びもたらし、僅かな刺激でも我慢出来ずに先から滲んでおり、度々漸のそれへと触れていた手が止まる。 呼吸が乱れ、悩ましい表情を浮かべていることにも気付かず、半開きの唇からは感じ入る声が出ていく。 初めこそ躊躇っていたというのに、欲深な蜜に塗れても構わずに右手を使い、包帯が汚れても構わずに悦楽を追い求める。 「あっ、ん……、はっ、はぁ」 「すっかり蕩けちゃってる。もういきそう……?」 「はぁ、あ……、ん、うっ……」 昇り詰めていく程に、甘い痺れに包まれて思考が蕩け、ぼんやりとしてくる。 眼光に鋭さは無く、感じ入る表情で舌を差し出し、漸のそれを舐めるも自身への行いは止まらない。 はぁ、と熱を孕む声が絶え間無く続き、先走りがダラダラと零れては自身をいやらしく濡らしている。 差し伸べられた手に頬を撫でられ、すりと唇へ滑らせてきた指を従順に受け入れて、熱い舌を絡める。 丹念に舐め、思考が翳っていく中で自身を追い込んでいき、じんわりと肥大した欲望が集まってくる。 「あっ、あぁ……、ん、くっ」 「やらしいの沢山出しちゃえよ。見ててあげるから……」 「うっ、はぁ、あっ……、んっ」 「もっと声出せよ。イクならイクってちゃんと言って。そのほうが気持ちいいよ」 淫靡な一面が頭をもたげ、ぴちゃりと音を立てて漸の指を舐め、自身へと絡めた手は尚もいやらしく蠢いている。 欲望に塗れた汁を滴らせ、もっと深く感じ入りたい衝動を抑えられず、声を出していく程に歯止めがきかなくなっていく。 ぐちぐちと先走りと共に扱いていく度に、言い様のない快感に浚われて喘ぎ、それがまた更なる興奮を煽って止まない。 声を発することでどんどん気分が高揚し、目先の欲に溺れていく自分を止められず、絶頂を間近に手付きも速さを増していく。 「はぁ、は……、あっ、もう、い、くっ……、あぁっ、はぁ」 「気持ちいいの……?」 「んっ、はぁ、ん……、い、い……、あ、あぁっ」 「なんて……? 何処がそんなに気持ちいいの」 「あ、あぁ、も、いく……、手で、擦るの、あ、はぁ……、い、いっ……」 「ホントお前って簡単。でも……、そういうところ嫌いじゃないよ」 何か言われた気がするけれど、達することに夢中で耳には入らない。 熱に苛まれて蕩け、ただ快楽だけを貪っていると腕を取られ、状況も呑み込めないままに引き上げられたかと思えば、次にはベッドに押し倒されている。 「ん、あぁっ、はぁ、や、めっ……、ああぁっ」 先走りを掬われて後ろへと指を呑ませ、くちくちと行ったり来たりを繰り返し、速さを増しながら徐々に其処を開かれていく。 「あ、あぁっ、やめ……、あ、んんっ、はぁ」 「前も後ろも気持ち良過ぎておかしくなりそう? どうせ堪えきれねえだろ。とっくに蕩けてるんだから、もうなんにも我慢する必要もないだろ……?」 「あっ、あ、うっ……、はぁ、そ、な……、掻き混ぜた、ら、あ、あぁっ」 「いけよ。もっと楽しもうぜ……、真宮。何もかも忘れて、全て俺に委ねちまえよ。もうとっくに後戻りなんて出来ないんだから、な……?」 慣らしていた其処は、相手を選ばずすぐにも漸の指を受け入れ、次第にぐちゅぐちゅと音を荒く掻き混ぜていく。 自身への刺激と混ざり合い、感じている証がだらだらと零れては、すぼまりに達して更に受け入れやすくしている。 拒むような言葉を紡ぎかけても、自身を愛でる手は止められず、貪欲に快楽を求めている。 何がいけないことなのかも次第に薄れていき、甘やかな誘いに流されてしまいそうになる。

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