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Digitalis※

「はぁ、あっ……」 幾重にも皺を刻み、敷布へとだらしなく身を投げ出しながら、止めどなく悩ましい声を漏らす。 髪は乱れ、頬は紅潮し、うっすらと浮かぶ汗が照明によって光り、漸の眼前にて無防備な姿を晒している。 目蓋を下ろし、泥沼の快楽へと叩き落とされて感極まり、訳も分からないままに目尻からは涙が伝う。 抗いきれず、魔力を帯びているかのような言葉に踊らされ、気が付けば自身を弄んで悦に浸っている。 手の甲を口元へ添えても、最早抑えきれぬ嬌声が絶え間無く溢れ、邪魔でしかない理性を追い立てていく。 「あ、あぁっ、も……、や、めっ……、出るっ……、はぁ、あぁっ」 躊躇いは潰え、昇り詰めない限りは手を止められず、一心不乱に自身を扱いていく。 欲深な蜜を垂らし、際限なく溢れさせながら手を滑らせ、ぐちゅぐちゅと淫らな奏では止まらない。 このまま堕落しきれば楽になれる、だが全てを委ねるなんて嫌だという想いがせめぎ合い、快楽を貪っていても葛藤はすぐにもわき上がる。 何も考えたくない、このまま息の根を止めてしまいたい。 叶わぬ願いを過らせつつ、尚も後ろには漸の指が呑み込まれており、散々に掻き乱されても快感として受け入れている。 嫌なのに、拒んでいるのに、いつしか其処を拡げられていく感覚に慣らされていき、確かな快楽を得られるようになっている。 いっそおかしくなってしまえたなら、どんなに楽だろう。 「あ、あぁっ、ん、んん……!」 どれだけ思考が蕩けても、記憶としていつまでも脳裏へとこびりつき、今宵の情事もまた新たな足枷となっていくことだろう。 何処かで冷静に事を傍観している自分が居り、それでも淫らに達していく衝動を抑えることは出来ず、遂には白濁を噴き出して甘やかな痺れに屈服する。 「あぁっ……、はぁ、ん……」 焦点が定まらず、ぼんやりと室内を見つめていながらも、余韻に浸っている声が漏れていく。 身を震わせ、撒き散らされた白濁により衣服が汚れるも、そんなことに構っている余裕は何処にも無い。 惜しむように自身を擦り、理性がなりを潜めている今は蕩けており、漸が居ることも忘れて息を吐く。 勢いが衰えても、なかなか止まらずに自身を伝い落ちては、解された其処を淫靡に濡らしている。 右手はいやらしいものに塗れ、手当ても虚しく欲望に溺れきっており、今や少しくらいの痛みでは気にもならない。 「んっ……」 ぐちゅ、と音を立てて指が引き抜かれ、思わず鼻にかかった吐息が零れる。 呼吸を乱し、一気に身体が重くなっていくようで気だるく、達した状態のまま呆然と過ごす。 「はぁ、あ、ぅ……」 印象にすら残らない光景を眺めていると、不意に何かを感じた時にはもう声が漏れており、未だふわふわとした心地の中で視線を向ける。 「んっ……、やめ」 「汚れちゃったし、上も脱ごうか」 いつの間にか衣服を捲られ、胸元へと舌を這わされており、咄嗟にやめさせようと腕を伸ばすも力が入らない。 権利など有らず、台詞の後にはぐいと服をたくし上げられており、抵抗するだけ無駄と悟って大人しく脱がされる。 しなやかな肢体が露わになり、熱を孕んで汗が浮かんでいたこともあり、衣服を剥がれてほんの少し涼しく感じる。 脱がされた衣服はベッドの端へ放られ、気にしている余裕も無く視線を逸らし、徐々に冷静さを取り戻していく程に身動きが取れなくなる。 「ん……? アレ」 気まずい沈黙に晒され、顔を背けながら脱力していると、何かに気が付いたような声を漏らされる。 思わず視線を向ける頃には左腕を掴まれ、ぐいと引っ張られて何事かと戸惑うも、程無くして理由へと行き当たる。 「真宮ちゃんも彫ってるんだ。ヒズルみたいに」 注がれている視線の先、二の腕にはトライバルが彫られており、ヒズルと同様黒一色で描かれている。 「そういえば、この前は上脱がなかったもんな。他にもあるの……?」 「……それだけだ」 「そうなんだ。何か意味でもあるわけ?」 「別に……」 「相変わらず嘘が下手だなァ。無意味にこんな事するようには見えねえし、何かしら理由があるんだろ?」 「テメエには、関係ねえ……」 「ふうん……、やっぱり何か意味があるんだ。ねえ、どうして此処に墨入れてるの……?」 答えたくはなかったけれど、退いてはくれないだろうと渋々口を割り、ぶっきらぼうに返答する。 少しずつ我を見失わせていた熱が薄らぎ、目を合わせたくはないのでそっぽを向きながら、意味はあっても教えたくはないので唇を閉ざす。 よりによって敵対しているような輩に明かすなんて絶対に嫌で、意地でも隠しきりたいのだけれども彼は執拗であり、素直に言うことを聞かないと分かるや否や行動に起こしてくる。 「んっ……! 何、してっ……、あっ」 「俺の質問にきちんと答えようね」 「なんで、テメエなんかにっ……、あっ、はぁ、ぅっ」 「答えて……? これはいつ入れたもの?」 達して間もない自身を握られ、次いで一方の手をするりと下ろし、再び内部へ入り込んでくる。 逃れようと手をさ迷わせても、思い通りにやめさせられるはずもなく、無理矢理に新たな火種を燻らせようと双方を無遠慮に弄ってくる。 「あ、あぁっ、やめ……、はぁっ、んっ……!」 「真宮……、いつ彫ったの?」 「はぁ、はっ、いやだっ……、あ、あぁっ」 「いつ……?」 ふるふると弱々しく頭を振るも、か弱き抵抗では我が身すら守れず、傲慢な攻めに晒されて悲痛な声が漏れる。 許されることはなく、ひたすらに過敏なそれを扱かれてはびくりと身が震え、内部で蠢く指は更に窮地へと追い詰めていく。 「あ、ぅ……、んっ、あ、チーム……、はぁっ、……んっ、チームに……、入ってか、ら……」 「そうなんだ。でも、それだけじゃねえよな……? なァ……、何隠してんの? そんなに俺には知られたくない秘密でもあるわけ……?」 「ちが……、ちがうっ、あ、あぁっ、ん、く……」 「それなら別に問題ねえよな? どうして彫ろうと思ったの? ねぇ、真宮。答えて……?」

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