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孤高のカタルシス※
いたいけにも声を抑えようと、口元へ手の甲を押し付けながら吐息を漏らし、熱を孕んだ顔を背けている。
耳元で囁きながら窺えば、額にはうっすらと汗が浮かび始めており、欲深な感情に囚われてきている。
左耳に収められているピアスを舐め、其れごと耳朶へ歯を立てると、肩をぎゅっと掴んで声を漏らす。
涙を浮かべ、あんなにも雄々しい青年からは次第にかけ離れていき、怖々と身を委ねながらも健気に押し流されまいと耐えている。
「真宮……」
「んっ……、呼ぶな」
肩へ添えられている手に手を重ね、すりと擦りながら囁き掛けると、それだけでもたまらないとばかりに上擦った声が漏れていく。
「そんな顔、誰にも見せてない……?」
「ん、はぁっ……、は」
「俺との約束、守ってくれてる……? 早く観念しないと、いつまでも気持ち良くなれないよ? 可愛がってやるから、いい加減素直になれよ」
「あっ、やめ……、触るな、んっ」
「本当に……? 言葉とは裏腹に、此処はもっといじめてほしそうにしてるけど。俺の勘違いかな」
「はぁっ、は……、あ」
羞恥心を煽りながら、すでにいやらしくそそり立っている自身へと触れ、先を軽く引っ掻いては疼くような刺激を与える。
堪えようと足掻いても、目に見えて蕩けた表情を浮かべており、か弱く零れていく声にも甘さが増す。
「何か今日はやけに敏感じゃね? 場所のせいかな。こういうシチュエーション好きなの? いつもより興奮してない……?」
「んっ……、はぁ、そんなわけ……」
「自分が一番よく分かってるだろ……? そうなんだ。真宮ちゃんてば、外でするほうが好きなんだ。そんなに皆に見てもらいたいの? えっちだね」
「あっ……、ちが、馬鹿なこと、言ってんじゃね、んっ」
「こんなにしておいてよくそんな事が言えるよなァ。もっと滅茶苦茶に弄ってほしいんだろ。 早くしないと皆が出てきちゃうよ。いいの?」
「んっ、ん……」
緩やかに先を撫で、なかなか素直になれないでいる真宮を焦らしながら、指で触れるだけにとどまる。
それでも感じているのか、先端からは淫らな証が滲んできており、感度が増しているのも気のせいではないだろう。
一体何度、この男を好きにしたら気が済むのか。
其処には本当に、何一つとして情念が湧いていないというのか。
流されているのはこの男だけだと、心の底から誓って言えるのか。
どうしてそんな事を考える必要がある、と紡いでから一掃し、目前にて快楽へ呑まれまいと耐え忍んでいる青年を見て、喰らい尽くさんばかりの劣情が現れていく現実に気付かない振りをしている。
欲しがっていない、それなのにどうしてか、瞳には自分しか映っていない現状に満たされていく。
数多を惹き付け、慕われ、好かれてしまう男を捩じ伏せて、独占しているこの一時は一体何なのだろう。
獰猛な一面が姿を見せ、切なそうに吐息を漏らしながら視線を逸らしている様に、言い様のない衝動がわき上がっていく。
掌握するのは自分であるのに、どうして調子を乱されているのか分からない。
「はぁ、はっ、あ……」
「連れが居るっていうのに、真宮ちゃんてば何してんの? ずっとこうやっていじめられるのを期待してたのかな」
「あっ……、もう、やめ……」
「やめてじゃねえだろ? どうしてほしいの……? 言わなきゃ分かんない」
「んっ……」
目で訴えられるも、意地悪く突き放せば視線を泳がせ、未だ恥じらいながら声を殺そうとしている。
口元から手を引き剥がし、刃の傷がまだ完全には癒えておらず、掌には一線が引かれている。
手首の戒めは流石に失われ、彼を縛り付けている証は今や、目に見えるところには何も存在しない。
往生際悪く理性を引き止めている彼を、強引に反転させて仕切りへと向かわせ、一方で腰を掴みながら自身へと指を這わせる。
「あっ……! はぁ、はっ、やめ、あっ……」
「俺もつくづく甘いよな、結局は折れてやるんだから。ほら、真宮……。念願叶ってどんな気分……? 一気に溢れちゃってるじゃん」
「ん、くっ……、はぁ、あっ、や……、やめ、はぁ……」
「後ろも弄ってやるよ」
「あっ、ダメだ、やめっ……、んっ……!」
制止を振り払い、自身から溢れている蜜を掬い取り、其処へとゆっくり指を埋め込んで押し開いていく。
「あ、あぁっ……、や、め……、ばか、はなせっ……」
「離していいの? 掻き回されるの好きじゃない……? 全然萎えてねえじゃん」
「あっ、はぁ、ん……、ちが……、ちがう、好きじゃな、あっ」
脱力し、縋るように付いている手は今にもずり落ちそうで、後ろを攻められながらいじらしく必死に足を立たせている。
拒絶を示していても、幾度となく受け入れさせた其処は悦楽を欲しており、萎えることもなく自身からはとめどなく感じている証が滴っている。
くちくちと音を立て、少しずつ拡げていきながら指を行き来させ、真宮の唇からは隠しきれない熱情が零れ落ちる。
声を殺そうとも無駄であり、荒く息を吐いては感じている様子が窺え、攻め立てる程にまっとうな思考が彼の中から溶けていく。
「あ、あ、やめ……、や、ぜん……、もう……」
「おねだりが上手くなったな。もう欲しくて仕方ねえの……?」
「んっ、ちが……、はぁ、あっ、ん」
次第に指を増やし、中で蠢かせては掻き回してやると、身を震わせて悩ましい声が聞こえてくる。
背を向けているが、さぞや熱っぽく瞳を潤ませて、煽るような劣情に塗れた表情をしていることだろう。
火照っている身体は熱く、腰を擦ってから脇腹へと指を這わせていき、撫でればひくりと従順に其の身が応える。
快感に脆い身体は容易く呑まれていき、抗う様子を見せてはいても最早譫言のようであり、いいところへいざなおうと腰を押し付けてくる淫らな自分には気付いているのだろうか。
「はぁ、はっ、あ……」
「どうしたんだよ、ほら。ひくついてるよ……? このままでいいの? 欲しくないの? なァ、真宮……」
「あっ、はぁ、んぅっ……」
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