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孤高のカタルシス※
「はぁ、は、あぁ……」
翻弄されながらも、未だにしぶとく声を抑えようと抗っており、俯きながら懸命に快感を押し殺す。
それがどれだけ煽る様であるかを知らずに、押さえ付けるかのように仕切りへと手を添えて、彼は今にもくず折れそうな理性を必死に繋ぎ止めている。
陽射しが似合いそうな青年は、均整の取れた体躯に健康的な肌色であり、捲り上げた衣服から惜し気もなく晒している。
うっすらと汗ばみ、淫らな熱を湛えながら其の身を揺らめかせ、腰を打ち付けられては耐えきれずにいやらしい声を発している。
「あっ……、はぁ、は、あ……」
いいところを掠めると、ぐっと拳を握り締めて耐え忍び、背後からでも堪えようとしている様が容易く見て取れる。
滑らかな肌へと触れ、ゆっくりと繋がりを深めれば甘ったるい声が漏れ、そのまま胸元へ手を回す。
すでに起立している尖りを指で弄び、収まっている熱を穿てば声量が増し、相変わらず拒んではいても最早情欲を隠せはしない。
きっと涙を溢しているのだろう彼を、もっと泣かせてやりたくて仕方がない。
目前にて晒されているうなじへと近付き、腰を打ち付けながら噛み付くと、痛がりつつも感じている声が溢れていく。
「はぁ、うっ……、やめ、いたっ……」
「痕付けてやろうか」
「あっ、やめ……、ん、はぁ、あっ、やめろ……」
「勘の良い奴には分かっちゃうかな。どうやって言い訳する……? 真宮ちゃんは嘘つくのが下手だから、すぐバレそうだよね」
「はぁ、あっ、ぜん……、やめっ……」
「バカ……、嘘だって」
名を紡がれ、此の身にしか縋れない青年へと微笑を湛え、歯を立てたところへ舌を這わせる。
噛み付きはしたけれど、痕を残せる程のものではなく、すぐにも彼から消え失せてしまうだろう。
食むように唇を当て、舌を添えて過敏な首筋を舐めていくと、見えないからか余計に身を強ばらせてよがっている。
汗と唾液と涙に塗れ、普段の様相からは想像も出来ないほどに無様で、艶かしくて、情欲を煽り立てる青年が健気に身悶え、誰にも見せられないような姿を眼前にて晒している。
同じところへと軽く歯を立て、乳首を弄びながら内部の熱を行き来させると、一気に押し寄せてくる感覚に彼が戸惑う。
堪えきれない声が溢れ、どうしていいか分からずに首を振っては譫言を繰り返し、凶悪な悦楽へ浚われそうな自分を恐れている。
「あ、あぁっ、う……、もう、も……、そ、なとこ……、やめ、あ、あぁっ」
「ん……? なに。もうイキそう? 真宮ちゃんてば、こんなところでイッちゃうの? そんなに気持ちいいんだ」
「あ、あぁ、くっ……、ち、が……、おれはっ……、はぁっ、ちが……」
「こんなお前に……、誰がついてきてくれるんだろう。なァ、そう思わない……? こんな腰振ってよがってる奴についていく奴なんて、単にお前とやりてえだけだろ」
「はぁ、は、あっ……、ち、ちがう……、ちがっ、あっ、あぁ」
「別に俺はバレたって構わない。言ってやってもいいんだぜ……? お前の大好きな連中に」
「あっ、あ……、う、やめ、はぁ、あっ……」
自然と責めるような、傷付けるような台詞ばかりが滑り落ち、切なそうに喘いでいる青年へ降り掛かる。
どうしてか苛めてやりたくてたまらず、その言葉一つがどれだけ彼を打ちのめすか分かっていても、唇からは止めどなく鋭利な刃が溢れていく。
「なァ、真宮……。お前の大好きなチームを潰してやろうか。鳴瀬のように、マガツのように」
「はぁ、あっ……」
囁きかければ、目に見えて彼が動揺を示し、駆け抜けていく緊張感を察する。
それでも熱を穿たれている身では、ここまで完膚無きまでにとろかされている状況では無力であり、今更情欲から免れる手立てなど皆無に等しい。
どれだけ嫌悪しても、呪っても、あらぬところに男を咥えながら自身を昂らせており、欲深な証がふしだらな感情に塗れてしとどに溢れている。
「お前、俺に勝てたことあったっけ……? これは屈服している証だよな」
「はぁ、あっ……、く」
「なァ、なんとか言えよ。お前が大切にしているもの全て、俺が跡形もなく壊してやろうか。お前に守れるものなんてあるの……? 真宮」
「んっ……! はぁ、はっ……、あ」
理性なんて捨て置け、思考など壊してしまえと奥へ捩じ込み、いいところを執拗に狙い打ちながら泥沼の快楽に溺れさせていく。
いつしか固く握られていた拳は緩み、ずり落ちそうな手をなんとか支えながら、やっとの状態であられもない身を預けている。
淫靡な空気が纏わりつき、絡み付く粘膜がいやらしげな音を発し、苛立ちばかりを募らせてくれる青年と繋がり合う。
何も紡がず、先程まであんなにも繰り返されていた拒絶は消え失せ、ただ嬌声ばかりを漏らしている。
とうとう堕ちてしまったのかと思えば、快感に喘ぎながら弱々しく振り向いて視線を寄越し、だらしなく唇を開いては苦しそうに喘いでいる青年と目が合う。
収めきれない唾液を溢し、潤んだ瞳と狂おしい程の快楽に染められた頬が映り込み、蕩けた声を発しながらも語り掛けてくる。
「あっ、ぅ……、そんなに……、あぁっ、く、おれが……、はぁ、あっ……、きにいらねえか……」
悲しげに映り込むのは、気のせいだろうか。
ごりと抉るように自身を穿つと、再び前へと向いて俯き、言葉にならない声を上げながら後ろをひくつかせ、応えるように締め付けてくる。
「あ、あぁっ……、や、そこ、はぁっ、あ、やめ……、あっ」
何も紡げぬように、彼を絶頂へと攻め立てていき、その度に上擦った声が滑り落ちていく。
何の為に其の身を奪うのかも分からぬまま、考えることを拒否している自分から目を背け、太陽のように目映い存在を辱しめる。
そんな時であった。
何処からともなく物音がしたかと思えば、次いで複数の足音が聞こえてくる。
ぴたりと動きを止め、辺りの気配へと意識を集中させれば、程無くして真宮も恐れていた事態を察し、途端に身を強張らせる。
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