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孤高のカタルシス※

「う~! 漏れる漏れる!」 バタバタと、忙しなく駆け込んでくる足音と声が聞こえ、耳をそばだてながら気配を押し殺す。 複数の存在を察知したが、今のところ入ってきているのは一人のようであり、個室を使用する気はどうやらないらしい。 早々に立ち去るであろうし、特に何の問題も無さそうに思えるが、共に過ごしている真宮からは緊張感が滲み出ている。 表情は分からないけれど、身動き一つせずに固まっている姿から容易く想像が出来、万が一にも乱入者が近付いてくる事を恐れている。 「ん……」 首筋へと口付けをすれば、このような状況でありながらも敏感に感じ取り、吐息だけでなんとかごまかそうとしている。 恐れを抱き、焦燥感へと苛まれていながらも身体は正直で、現状を楽しんでいるかのように更なる悦楽を渇望している。 次第に堪えようと足掻く懸命な姿に悪戯な心が芽生え、腰を回して内部をゆっくり掻き乱してやり、浅く息が漏れたと同時に再び首筋へと舌を這わせていく。 「はっ……」 背を反らせ、逃れようとしているのか身動ぐも無駄であり、そうした事によって一層深く自身を受け入れてしまい、危うく出そうになった声をすんでのところで抑えている。 「真宮……」 「は……、ん」 外へと漏れぬよう、吐息混じりに耳元で囁くと、それだけでも過剰に反応を示して身震いし、顔を背けながらも微かに喘いでしまっている。 否定を繰り返すのは目に見えているが、感じているであろうことは火を見るより明らかであり、欲に塗れている自身は物欲しそうに張り詰めている。 「灰我ちん、終わったッスか~?」 「わあ何だよ! いきなり入ってくんなよな!」 足音と共に、新たな声が聞こえてきたかと思えば、真宮がハッとした様子で扉へと視線を向ける。 微かに開かれている唇からは何も紡がれず、言葉を失って大いに動揺を孕んでおり、きっと頭の中が真っ白になっているに違いない。 横顔が映り込み、まさかの存在に目を見開いて硬直しており、比にならない程の緊迫感に包まれていく様を間近で感じ取る。 「灰我と有仁か」 耳元で囁けば、ひくりと身体を弾ませながらもそれどころではないようであり、一番其所に居てはならない人物へと意識を根こそぎ奪われている。 やはり一人ではなく、灰我や有仁という連れが存在し、彼等はこのようなところでアタマが犯されている事実を知りもしない。 「丁度いいところに来た。お前のあられもない姿を見てもらえばいいんじゃねえの?」 「んっ……」 唇には笑みを型どり、静かに語り掛けると真宮が視線を寄越し、いやだと首を振りながら訴えている。 髪へと触れ、毛束を指に絡ませて弄び、涙で濡れている目尻へと唇を落とす。 甘やかで、切なそうな吐息が漏れ、片手で尻臀を撫でながら腰を引き、次いで突き入れると苦しそうに目蓋を伏せ、快感を塞き止めている唇からは唾液が糸を引いている。 忙しなく息が漏れ、どれだけ抗おうとしても熱を纏わせており、最早仲間が居たところで更なる快感をもたらしてくれる玩具でしかなく、そこまで彼はもう堕ちてしまっている。 「別に付いて来てくれなくても良かったのに!」 「お子様を一人で歩かせるわけにはいかないっしょ~! ちゃんと見てろよって真宮さんにも言われてるし!」 「お子様じゃねえもん! トイレくらい一人で行ける!」 「ぷぷ! ムキになるところがお子様ッスね~!」 「む! なんだよ大して身長変わんないくせに! お前だってお子様だろ!」 「大差あるっしょ! 一緒にしないでほしいッス! ふん!」 「有仁のくせに生意気だぞ!」 「つうかなんで俺は呼び捨てなの! おかしくない!? 真宮さんにはまみ兄なんてデレッデレしてるくせに!」 「まみ兄大好きだもん! お前嫌い!」 「わ~んヒドい! もうゲーム貸してやんない!」 「え、え、ウソウソ!」 「ちょ、おい手ェ洗ったのかよ!」 「あ」 「あ、じゃねえよ! けがされた……!」 賑やかな会話が続いていく程に、真宮は不安そうに視線を泳がせており、己を責めながらも中を擦られる悦びから逃れられないでいる。 声を押し殺しても、開きっぱなしの唇からは興奮を湛えた吐息が漏れ、自身からは欲深な汁がこの状況でも溢れている。 涙を浮かべながら情欲を煽る吐息を乱しており、仲間を間近に感じていながらも戻れない彼を独占して、征服して、必死に動かないで欲しいと目で訴えている真宮を追い詰めていく。 「はぁっ……」 いやだ、と首を振りながら懇願されても聞かず、此の身にしか縋れず、頼れない青年を見てぞくぞくと快感が迸り、暗鬱とした心が一時だけでも満たされていくのを感じる。 「今のほうが感じてない……? 締め付けてくる」 「はぁっ……、ん」 少しずつ腰を動かせば、もっと激しくして欲しいとねだるように、其処を蠢かせて締め付けてくる。 「そういえば、まみ兄何処行っちゃったの? 後ろに居なかった」 「ん~? そういや居ないかも。ま、その辺で煙草でも吸ってんじゃないすかね。そういう人だから」 「煙草って美味いの?」 「灰我ちんはまだダメ~! お子様にはまだ早いッス!」 「だからお子様じゃないって言ってるだろ! ちょっと聞いてみただけじゃん!」 未だに立ち去らず、会話をしながら佇んでいるようであり、真宮の姿が見えずとも異変として察している様子はない。 彼には聞こえているのだろうか、流されないように踏み止まるだけで精一杯の真宮には、言葉として認識するには時間を要しそうである。 「はぁっ……!」 嘲笑うように、慈しむように自身へと手を添え、にちにちと扱きながら腰を進めていく。 たまらず声が漏れ、ハッとした表情をしてから再び押し殺し、もうやめてくれと瞳が訴えてくる。 いやだ、いやだと首を横に振り、それでも押し寄せる快感に抗えなくて自身を高ぶらせ、淫らな蜜を喜んで垂れ流しては状況を楽しんでいる。 「ナキツも来てるの……?」 そっと問い掛ければ、弱々しく瞳を向けてから逸らし、ふるふると首を振る。 そうして唯一、彼の変化を目敏く察する者が居ないと知る。

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