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Unknown

「チームの事は、俺も知っておいたほうがいいのかな」 「まあ、知っていて損は無いと思うッスけど……」 「そう。それなら教えて頂こうかな、來先生」 「先生って……、なんか調子狂うな」 「なんだかいけない気分になってきちゃう?」 「や、別にそんな事は、ないんすけど……」 薊とのやり取りにおいて、始終落ち着いていた試しは無いのだが、人差し指で顎を掻きながら気を取り直そうとする。 チームの話題へと移り、薊達が出入りする場所を思い浮かべれば、ある程度は把握していたほうが良いような気がするし、知って不利になる事も無い。 寧ろ何も知らないままでいるほうが不味いと思えるし、せめてアタマである薊くらいは聞くべき案件なのかもしれない。 群れについて問われ、いつしか床へと尻餅をつきながら思考を巡らせ、何から伝えるべきだろうかと整理していく。 目前では、相変わらず微笑を湛えている薊が居り、痛いくらいに視線を注がれていてそわそわする。 月光に照らされて、純白のスーツがより輝きを纏っているように思えるけれど、たまたま裾にこびりついている赤黒い染みを見つけてしまい、すぐにそれが何であるかに気付いてしまって急速に気分が落ち込んでいく。 それと同時に、またしても先程までの事を思い出してしまい、僅かに吐き気が込み上げてきたがなんとかやり過ごそうとする。 懸命に振り払い、話すべき事柄に集中しようと努め、頭の中で勢力分布図を展開していく。 「大小無数にあるので、俺も流石に全ては把握しきれていないんすけど、まあ……二つ知っていれば十分なんじゃないかと」 「二つ?」 「はい。ディアルとヴェルフェっていうチームですね」 「ふうん、ディアルとヴェルフェねぇ……。目立つのはその二つなんだ」 「そうっすね。でかいところはその二つだし、何かと話題にもなるし、とにかく目立って仕方がないチームですよ」 「なるほど」 顎に手を添え、静かに聞いている薊を前に、自分でも状況を整理しながら言葉を選んでいく。 普通に仕事や学校へと行き、横道に逸れることなく生活をしている分には、どれだけ目立つ集いであろうがなかなか知る機会には恵まれないかもしれない。 だが、自分のような人間であれば知らぬ者など居ないくらいによく聞く名前であり、とにかく話題に事欠かない群れなのではないかと思っている。 「ディアルは真宮って奴が頭張ってて、こっちは結構穏健派らしいっすね。でも売られた喧嘩は全部買っちゃうらしいし、それでいて負けねえらしいから、マジで穏健派なのか本当のところはかなり怪しいですけど……」 「チーム全体が喧嘩上等なの?」 「いや、全体というよりは……、トップ、だけ……? て、話ですけど……」 「そうなんだ、面白いね。來君、会った事ある?」 「や、無いですね。ちょっと会ってはみたいッスけど……」 「そうだねえ、俺も少し興味があるなあ。ヘッド様自らが喧嘩買っちゃうなんて、落ち着きが無さ過ぎてハラハラしている仲間が居そうだね」 「そうですかねえ。心配する必要なんかないんじゃないすか? つえぇからトップなんだし」 「來君にはまだ早かったかあ。この繊細な心模様」 「え、なんすか」 「ううん。はい、どうぞ続けて」 何がなんだか分からぬ内に先を促され、何処まで話していただろうかと思案する。 ディアルは穏健派だと小耳に挟むし、話が分かる群れで、周りと上手く付き合っていけるような色好い話ばかり聞こえていたのだが、問題はもう一方の群れ、ヴェルフェである。 「反対にヴェルフェは、相当やべえって話です。最近アタマが変わったらしくて、それまでは割と温厚っつうか、全然目立つような喧嘩とか無かったらしいんすけど、今はその頃の面影なんて全く無いくらい様変わりしているようですよ」 「そっか、それはまた随分と激しそうだね。ディアルとは対照的だ」 「はい。その二つが一度揉めて、それからは関わろうとする物好きなんていませんよ。揉めた時に巻き込まれて、被害を受けた奴等が結構居るみたいだし、遠巻きに様子を窺っている奴等が殆どじゃないですかね。ま、俺もそうだけど」 ディアルだけであれば、そこまで過敏に警戒する必要もないのかもしれないが、一度でもヴェルフェとこじれている以上は関わる事によってどのような事態へと発展するか分からない。 恐れて誰も近付かない、腫れ物へと触れるかのように距離を置き、もしもの時にはいつでも逃れられるようにと動向をみな必死に探っているのだ。 万が一にもまた火花が生じて争うような事があっても困るが、もしも手を組んだら相当の影響力を有する事になり、それにより転がる方向によっては目につく集団を根絶やしにする力業も可能なのではないかと思うと背筋が薄ら寒くなる。 「じゃあ、特にヴェルフェに関わったら大変な事になりそうだね」 「間違いなく大変な事になりますね。目ェ付けられたら確実に潰しにきますよ、きっと」 「そうか……。よし、ヴェルフェの縄張りを重点的に攻めよう」 「は……? いや、あの……、俺の話聞いてましたか……?」 「もちろん、聞いていたよ。來君の心地好い低音」 「じゃあ、その……、ヴェルフェは特に避けたほうがいいって事も、知ってますよね……?」 「ヴェルフェの縄張りで遊ぼう。本格的にお仕事を始めよう」 「全然話聞いてねえし……」 わざわざディアルと関わろうとするのもやめたほうがいいけれど、よりにもよってどうしてヴェルフェに喧嘩を売るような真似をするのだと、全く意味が分からなくて気ばかり焦ってくる。 始めから何も言わないほうが良かったのだろうかとも思ったが、それはそれで今の状況を考えると不安になる一方である。 そんなアッサリ決めちゃっていいのかよ……、あの人らの意見は……、つうか俺は関わりたくねえんだけど……、え、誰だってそうだよな……? 上手くお仕事とやらをしたいんだったら、わざわざ寝た子を起こすような事は避けると思うんだけどな……、ヴェルフェは……、やめたほうが……、いいって絶対……。 て言っても、絶対に聞き入れてはもらえないんだろうな……、スゲェ楽しそうな顔してるもんな……、俺は全然楽しくねえんだけど……。

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