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神の花

「やだ……。そんなに一斉に見つめられたら摩峰子照れちゃう!」 ようやく本題へ入ろうという時に、方々からの視線を一身に浴びていた摩峰子が急に恥じらい、両の手で頬を押さえながら何処となく嬉しそうに佇んでいる。 真面目な話題へと切り替わるはずが、自らぶち壊しにして微笑んでいる摩峰子にがくりと隣でエンジュが体勢を崩している。 傍らへと視線を向けて見れば、沈痛な面持ちで額へ拳を添えているエンジュが居り、どうやら唐突な頭痛に悩まされているようだ。 「大丈夫か」 ひとまず声を掛けてみるも、言葉も出ない様子でしっしと片手で払われてしまい、なんだか一気に疲労を増しているようである。 「そんなに恥じらう摩峰子が良かったのか」 「冗談で聞いてんだろうけどぶっ殺すぞ」 ぼそりと問い掛けてみれば、項垂れている為に表情は知れないけれどもすかさず言い返され、至っていつも通りのエンジュである。 明らかにどっと疲れているようだが、前方へ視線を注いでみると龍妃も然程変わらぬ態度を取っており、住処は違えども両者の位置付けは大差無いらしい。 目前でも、龍妃が疲れきった様子でがくりとこうべを垂れており、とやかく文句を連ねる元気すら奪われているようである。 反対に雛姫や、憂刃は笑顔で摩峰子へと声を掛けており、やはり此処も似た者同士である。 視界から外れている一名が気になり、そっと振り返れば柘榴は一同から離れていくところであり、全てを聞くつもりはないらしい。 何をするのか不明なので暫く様子を窺っていると、カウンターへ近付いて手際良く器を出している。 警戒には及ばないようなので、視点を戻して再び話へと耳を傾け、一番に動向を把握するべき人物を視界に収める。 「話、始まらないね」 うっすらと笑みを湛えている唇が動き、静かに紡がれた言葉が耳へと入る。 「いつもの事だ。お前が一言発すればすぐにも話は進みそうだが」 「いいよ。別に急いでないし、それに……」 言い掛けてから間がもたらされ、視界にはきっと龍妃が映り込んでいることであろう。 下手に動いて噛み付かれるのは面倒だとでも言いたげに。 「て、早く話進めろよ! 完全に逸れてんだろうがよ、ソコッ! スイーツ今関係ねえし! 気持ちワリィつらで気持ちワリィ事言ってんじゃねえよ!」 「ハアァッ!? 何それ! 僕達の美しさに嫉妬する気持ちは分かるけどあんまりにも酷いんじゃないの!? 早く髪の色変えてよね!」 「わあ、龍妃ちゃんみたいに野蛮で可愛いげのない子だね~! 構って欲しいなら素直にそう言えばいいのに~! 可愛がってあげるよ!」 「そうよそうよ! 美し過ぎて照れるのは分かるけど、もう少し優しくしてよね!」 「あああ、話通じねえ……。パス……、もう俺寝るわ……。勝手にやれよ、めんどくせェ……」 一斉に浴びせ掛けられて流石のエンジュも参ってしまったらしく、早々に戦線離脱して今度こそ寝ようとソファへ身を沈めており、一秒も彼等の相手をしていたくないようだ。 「話くらいは聞いていろ。後で説明するのは面倒だからな」 「知るかよ、クソッ」 悪態をついているエンジュに小突かれつつ、ようやく多少は落ち着いてきたのか、摩峰子の咳払いと共に再び静けさを取り戻し始め、目前では気怠そうに龍妃が腕組みをしている。 「最近、一体何処から湧いて来たのか分からないけれど、妙な物が出回っているみたいなのよ」 言いながら摩峰子が目配せし、龍妃が不機嫌そうな表情を湛えつつも手を忍ばせ、上着の内側から何やら取り出す。 「何これ」 無造作に龍妃から放られた物が、机上を滑る。 一部始終を眺めていた憂刃から声が漏れ、興味津々といった様子で謎めいた代物に意識を注いでいる。 誰もが視線を奪われ、小さな黒い包みを気に掛けており、此れが方々を騒がせている正体のようだ。 「ま、明らかにいい物ではないわよねえ。とってもいけないお薬よ。出回ったら困る物」 「それを、どうして君が……?」 「身の程を知らねえクズから頂いただけだぜ」 「そう。ところで摩峰子さん、此方の方々は一体……。このお店からその包みへと繋がる要素があまり見えないんですが」 「あ、そうよね! それを言わなきゃ始まらないわよね! ごめんなさいね、漸君!」 いいえ、と言いながら微笑む漸に、龍妃が不満そうな表情を浮かべている。 傍らでは雛姫が笑みを湛えているが、黙って言う事を聞いてくれそうな従順さは見た目に反して孕んでいないように見える。 「この子達は……、迷える子羊達を癒してくれるボーイよ!」 「ハァ……、どうにかならねえのかよ……」 摩峰子が自信満々に告げたところへ被せて、龍妃が深い溜め息と共に項垂れる 「それって……」 「そうだね。例えば貴方のような美しいお兄さんに、請われるがままに尽くすお仕事だよ。まあ、ここまでのイケメンなんかそうそう来ないけどね~!」 けらけらと楽しそうに笑いながら漸へと語り掛け、雛姫は視線を巡らせる。 「は……? 野郎とヤッてるって事かよ」 大人しく寝ていたかと思えば、急にエンジュが口を開いて信じられないといった様子であり、包み隠さず問い掛けている。 「そうだけど? 君もどう? 気持ち良くしてあげるよ~? お兄さん、ネコの経験ある? 美味しそうだよね、興味あるならどう? 初めてなら頂きたいな~、ねえ僕にくれない? 他に誰か決めてる相手いる? 特にいないならどう? ねえ、お兄さん」 一気に捲し立てられて、エンジュは整理が追い付かないようであり口を閉ざし、珍しく静かである。 予想外の出来事に見舞われ、何がなんだか分からないようであり、何処までか本気かは謎の発言にも返せないでいる。 「はぁ? あんな奴のどこがいいの?」 「え、普通にかっこいいじゃん」 「え~! ありえな~い! 趣味悪いよ、雛姫ちゃん!」 「そんな事ないよ~! 今よりももっと可愛い顔してくれそうな予感しかしないけど!」 「げっ、ないない! 夢見過ぎだよ! エンジュにするくらいなら絶対ナギリのほうがいいよ!」 「え? ちょ、憂刃……?」 「う~ん、それもアリっ! お兄さん後ろの経験は!?」 「あ、あの……、えっと……」 エンジュが大ダメージを負っている一方で、唐突に槍玉に挙げられたナギリもすでに参っており、似た者同士の憂刃と雛姫は大層盛り上がっている。

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