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神の花

相変わらず騒々しく、身を乗り出して応戦するエンジュに、憂刃は退屈そうにふんと鼻を鳴らす。 それがまた気に入らないようで、拳を震わせながらエンジュが腹を立てており、懸命に落ち着こうと自制心を働かせているらしい。 幾度となく同じ事を繰り返しても、結局はこうして火花を散らしてしまうようであり、消耗すると分かっていながらも流すという選択肢が互いに無いらしい。 大体いつも最後にはエンジュが苦渋を舐めさせられているのだが、どうやら今日も例によって例の如くであるようだ。 「まあまあ、二人とも。それくらいにしておこうか。ちゃんと話を聞こうね」 「はい、漸様! あんな粗暴な輩は放っておきましょう!」 「おい、テメッ……。粗暴な輩って俺かよ!」 「まあ、見渡す限りお前しか居ないだろうな」 「うるせえぞ、ヒズル! 俺はもう拗ねる、ふて寝する……!」 どうやらへそを曲げてしまったらしいエンジュが、また性懲りもなく寝入ろうとソファに沈んでいる。 とは言え、単純明快な為にそう長くは続かず、そのうち何事も無かったかのように割って入ってくる事だろう。 「入手先は掴んでいるのか」 「いや、それを取り上げたまでは良かったんだけどよ、逃げ足の速い奴でまんまと取り逃がしちまった」 「そうか。それならまた、同じような輩を待つしかないか。人数が要るな」 話しながら煙草を取り出すと、気付いた摩峰子がカウンターから灰皿を手にし、机上へと差し出す。 置かれた灰皿を手繰り寄せ、火を灯して紫煙を燻らせつつ、それなりの人員が必要になってくると思う。 「クラブ周辺は誰に張らせてもいいが、此処ではそうはいかない」 「漸様みたいに腕が立って、それでいて信用に値する人物で、確実に事を遂行してくれるようなイケメンじゃなきゃダメって事なんでしょ!」 「まあ、別にイケメンじゃなくてもいいが」 すかさず憂刃が捲し立てるも、冷静に返してから紫煙を上方へと揺らめかす。 摩峰子が此処へと呼び寄せたのは、包みの根源を叩いて欲しいという事の他に、目前にて腰掛けている彼等を守って欲しいという願いが孕まれている。 龍妃ならどうにでもなるだろうが、流石に雛姫のような者達では力で敵わず、無理矢理に押し切られてしまう可能性が極めて高い。 「神様の薬草と言われているような名を付けるなんて、きちんと意味を分かっているのかしら」 「摩峰子姉、そういうのは深く考えようとするだけ無駄だって~。そいつらにとってはお金になればいいんだろうし」 「やっぱり複数だと思う?」 「そりゃね、一人じゃ難しいっしょ。それでいて絶対にまとめているリーダー格がいるんだろうし~」 「そうよねえ……、もしかして何処かのチームなんじゃないの! 貴方達の同業者!」 ハッと思い付いたかのように摩峰子が視線を注いでくるも、特に返す言葉は無く、そんな話は今までに聞いた事が無い。 わざわざ馬鹿正直に姿を晒すような真似もしないだろうが、それにしたって何も聞こえずに物だけがばら蒔かれている現実に、少なからず薄ら寒さを感じる。 何も知らずに暗躍している可能性もあるが、あえて、ヴェルフェが多重に絡んでいると知りながら狙ってきているのであれば、遠巻きに挑発されているようなものだ。 「チームが関与しているのかはまだ分からないけれど、そんな話は聞いた事がないかな」 「ですよね、漸様! 買い手はどうやって手に入れてるんでしょう。そしてそれが、実際にはどういう代物なのか……手っ取り早くちょっとナギリ試してみてよ!」 「えっ!? ちよ、なに言ってんだよ。いやだよ、憂刃……」 「え~! だってぇ、どんな効能か気になるじゃない? 良いものだから売れてるわけじゃない? 依存性の高さとか効果時間とか症状とか知っておかなければならない事が山程あると思うのナギリこれは人助けだよ!」 「いや、だからってなんで俺が……助けて下さい」 殆ど好奇心で憂刃に迫られ、困り果てたナギリが救いを乞うように視線を向けており、今日も無理難題を求められて戸惑っている。 それなのに憂刃から離れられないのだから、不思議なものであると同時に、ナギリからもきっと離れられないのだろう。 離れるという選択肢なんて、互いに始めから無いのだろうけれど。 「此方の動きを気取られるのは面倒だ。少し時間が要るな」 「そうよねえ。公に聞き込みでもすれば本人に伝わるかもしれないし、そうしたら更に尻尾を掴めなくなってしまうかも」 「聞き込みなんてめんどくせェ事するわけねえだろ? 怪しい奴は全員ぶん殴ればいいんだよ」 「そんな野蛮な事するのはアンタくらい……て言いたいところだけれど、どちらかと言えば実力行使のヴェルフェちゃんだったわね……」 「お前達に迷惑は掛けない。安心しろ」 唐突に割り込んできたエンジュへと、摩峰子がしみじみと言葉を紡ぐ。 今更な気もするし、野蛮と分かりきっていて使役しているのだから、摩峰子も相当におかしい輩だ。 摩峰子や、龍妃を始めとした面々が危害を被るような展開にはしないが、人員をどう宛がうべきか定まらない。 あまり大勢で固めたくはないが、かと言ってもう少し頭数が欲しいところであり、それでいて腕の立つ者を求めている。 「此処の事なら、俺も協力するよ。後、そいつも頭は悪いが何かしらの足しにはなるだろう」 思案を巡らせていると、それまで離れていた柘榴が戻っており、丁度憂刃へと珈琲を差し出している。 「ごめんね。これしか無いんだけど、飲める?」 「わあ、嬉しい! 珈琲でも何でも飲めるよ!」 「それなら良かった」 にこりと微笑んでから、憂刃を筆頭に客人である人数分のコーヒーカップが置かれていき、いつの間にか平然としているエンジュが手繰り寄せて早速飲んでいる。 「お前達も頭数に入れていいのか」 「ああ。龍妃と一緒にどうぞ」 「そうか。後もう何人か欲しいところだな」 誰でもいいわけではないので、自陣から無作為に選出する事は出来ない。 手にしていた煙草を灰皿へと擦り付け、仄かな灯火を消しながら思案する。 面倒な事態になってきた、とは思いながらも何処と無く楽しみもあり、こうして過ごしている時間も嫌いではない。

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