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合縁奇縁

「増えてやがる……」 窓際にて、深い溜め息をつきながら眺め、半ば諦めた様子で言葉を紡ぐ。 他にも言ってやりたい事は山程あるけれど、最早面倒臭くなって閉口しており、事の次第を見つめているだけにとどまっている。 相変わらず、お決まりと化してしまっている場所にて、見慣れた面々が大層嬉しそうにはしゃいでいる。 「うわ! なんかがっちんの滅茶苦茶美味しそうじゃないすか!? え、何それどれ!?」 「ん~、たぶんコレじゃないかなあ。確かに美味しそうだよね~、いい選択」 「美味しそうじゃなくて、実際うまいもん!」 有仁、乙、灰我の順に喋り、やはり机上には色とりどりのケーキがそこかしこに並べられており、確か以前にも同じような状況に甘んじていた気がする。 けれども今回は、蓋を開ければまんまと増員されており、厄介な三人組がそれはもう幸せそうな笑顔を浮かべて舌鼓を打っている。 どうしてこうなるのか、なんてげんなりしつつも、結局は我が儘を聞いてしまうのだから致し方ない。 付き合わされる度に、黙々と珈琲ばかり飲んでいる気がするも、とてもじゃないけれど一緒に美味しく頂こうとは思えない。 それ……、一体何個目だ……? とは聞けず、愚問でしかない為に口を噤み、陽気な面子を観察している。 「今日は、いつにも増して賑やかですね」 柔らかな陽射しが注ぎ、温もりを心地好く感じていると、傍らから声がする。 視線を向ければ、当たり前にナキツが腰掛けていて、優しげに微笑んでいる。 「賑やか通り越してんだろ……。うるさくて仕方がねえよ」 「真宮さんは食べないんですか? 此処、結構美味しいですよ」 「お前……、なんだかんだ楽しむよな。ちゃっかり食ってるし……」 「はい。真宮さんと一緒なら、俺は何処に居ても楽しめますから」 「なんか似たような事を前にも言われた気が……」 「何度でも言いますよ。真宮さん、貴方の為なら」 ティーカップ片手に微笑まれ、急激に気恥ずかしくなって視線を逸らし、珈琲を飲みながら平静を装う。 麗らかな日和にて、休日を謳歌している人々で巷は溢れ返り、誰もが幸せそうに映り込んでいる。 頬が熱を持ち、なんでアイツは恥ずかしげもなくそういう事を言うんだ、と思いながら一口二口飲むも、動揺していて味が分からない。 いちいち振り回されている自分も大概だけれど、慣れないのだから仕方ない。 「そういえば、刻也さんに会ったそうですね」 外ばかり見つめ、情けない表情を晒さないようにしていると、傍らから馴染み深い名を紡がれる。 「おう、そうなんだよ」 「嬉しそうですね。顔がにこにこしてますよ」 「え? あ、からかうんじゃねえよ。お前にも会いたがってた」 「俺もお会いしたかったんですが、なかなか都合がつかなくて残念です」 「またすぐ会える」 刻也の話題になり、自然と顔が綻んでしまう。 今回の訪問では、結局ナキツとは会えなかったようだけれど、またそのうち顔を見せてくれると思う。 たまには自分から向かいたい気もするのだが、そこまではなかなか遠慮が上回って出来ないでいる。 一時を思い出し、照れ臭そうにしながらも穏やかな笑みを湛え、本当に会えて嬉しかったと噛み締める。 お陰で幾分かは気分が和らぎ、そうしてまた前向きに生きられている。 「刻也さんが相手では、流石に嫉妬も湧きませんが、少し羨ましいです」 「何を言ってんだよ。でもまあ確かに、刻也さんに会いてえ奴は一杯いるだろうしなあ」 「念の為に言っておきますが、真宮さんに好かれていて羨ましいという事ですよ」 「は……? それこそ何言ってんだよ、お前」 「真宮さんこそ、今更何を言っているんですか。俺にとっては、いつでも貴方が一番に決まっているじゃないですか。履き違えないで下さいね」 にこりと微笑まれ、折角落ち着こうとしていたところを阻まれて、二の句を継げなくなってしまう。 返答に困り、立ち去る事も出来ずに退路を絶たれ、そっぽを向くくらいしか手立てが残されていない。 「相変わらず恥ずかしがり屋さんなんですね。そっぽを向かないで下さい」 「うるせえな、俺の勝手だろ……」 「たまにはケーキでも食べてみたらどうですか? 甘くて美味しいですよ」 「いらねえんだよ。ったく……、俺はこんな所で何やってんだ」 「半ば子守りのようですね」 「言うな……。頭が痛くなってくる……」 辟易としつつ、向かいへと視線を向ければ依然として、三人組が楽しそうに盛り上がっている。 此方などお構い無しに、女子かと突っ込みたくなってしまうくらいに、様々なケーキを食べながらきゃっきゃうふふしている。 何がそんなに楽しいのかさっぱり分からず、お前らの胃袋は一体どうなっているんだと疑問が尽きない。 「オツって、この後の予定はどうなってんすか」 有仁一人でも手に負えないというのに、同格の面倒臭さが揃ってしまえば放棄したくもなり、耳を傾けながら呆れた様子で一部始終を眺めている。 すると、黙々と食べていた有仁が乙に視線を向け、フォーク片手に声を掛けている。 「ん~、この後はちょっと打ち合わせが入ってるけど、まだ時間あるから大丈夫だよ~」 「そっか! それならまだまだ楽しめるッスね! また見に行くぜ!」 「うん。この前も来てくれてありがと~」 なんともほのぼのとした空気が漂っており、舞台から下りるとこんなにも人が変わってしまうのかと、未だに乙がよく分からない。 まさか甘い物好きとは思わず、わざわざ駆け付けてくるとは考えられず、お陰で大変関わりたくない状況が広がっている。 「また近々やるから、是非見に来てね~。俺はりきっちゃうよ~」 「ホント毎度の事ッスけど、誰だよお前って感じッスよね~。電池切れすか? ゆるゆるなんすけど、今のオツ」 「次は是非、俺も伺わせて頂きますよ。この前は行けなかったので」 「わあい、ナキツさんありがと~。有仁は、よく分かってるでしょ~。電池切れてないし、充電満タンだよ~。今の俺、最高にキリッてしてるでしょ~」 「いやいやいや、何処がッスか」 「はいはいはい! 俺も行きたい! すごくかっこよかった!」 「うんうん、灰我くんも一緒にね。かっこよかったなんて嬉しいな~。もちろん真宮さんも、是非」 朗らかな光景を眺めていると、急に話を振られて柔らかく微笑まれる。 「ああ。そうだな……」

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