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合縁奇縁

腹を抱えて笑っていると、ナキツが申し訳なさそうに顔を覗かせ、芦谷も気が付いて会話を始めている。 「突然押し掛けてしまってすみません。まさか本当に芦谷さんにお会い出来るとは思わなくて……、お元気そうですね」 「ああ……。まさかこんな所でお前達と顔を合わせるとは思わなかった。お前らも元気そうだな……」 溜め息混じりに応対しながらも、控え目にふっと柔らかな笑みが湛えられる。 「咲ちゃんのお友達?」 「ん? お友達っつうか……、その、なんだ……」 「お友達ですよ。特に真宮さんと大の仲良しなんです。ね、芦谷さん」 「あんなのと仲良くした覚えはねえぞ……。アイツまだ笑ってんじゃねえか。ぶん殴ってやろうかな」 やり取りの最中で、ナキツと芦谷を交互に見ながら颯太が話し掛け、相変わらず温和に微笑んでいる。 友達、という台詞に芦谷が少々戸惑うも、ナキツは躊躇いもなく肯定し、颯太は嬉しそうに笑っている。 「ねえねえ、まみ兄とどういう関係なの?」 「どういう関係って……」 颯太と隣り合い、それまで大人しくしていた灰我が割り込み、芦谷を見つめながら問い質す。 なんとも言い表しにくい関係に芦谷が困惑し、なんとか口を開くものの言葉がつっかえており、助けを求めるようにナキツへと視線が注がれていく。 「少し難しいですね。良き友人であり、ライバルとも言えますし、余計な気遣いがいらない対等な関係とも呼べますし」 「俺は別に……、そういうわけじゃ……」 「少なくとも真宮さんは、そう思っていますよ。芦谷さんの話をする時は、いつも楽しそうですから」 「ナキっちゃんもそうなの? まみ兄とそういう関係?」 「ん? 俺は……、どうかな。また少し違うかもしれないね」 優しげに灰我へと笑い掛け、振り返った先には一人の青年が映り込んでいる。 それぞれの視線も一点へと注がれ、芦谷は息をついてから一歩を踏み出し、輪から外れて近付いていく。 「腹がっ……、腹が捩れる……!」 「ちょっと、真宮さ~ん! いつまで笑ってんすか、もう! そろそろ落ち着かないとダメっすよ!」 「だって、お前! あの芦谷が……、あの、芦谷が……、くっくっ」 「ああ……、ダメっすねコレ……」 迫られている事も知らず、果てはしゃがみ込んで笑っていると、有仁が呆れた様子で声を掛けてくる。 それでもツボにはまってしまった以上はなかなか抜け出せず、話しながらまた笑いが込み上げてきて元の木阿弥になり、腹を押さえてひいひい笑っている。 有仁は溜め息を漏らし、これはもう駄目だと悟った様子であり、それでも側で動向を窺っている。 「真宮さ~ん、そんなに笑い転げてたら咲ちゃんが……、あっ。ちょ、ちょっと真宮さん! ちゃんとして下さいよ!」 「おい」 「は、はい! なんすか~!」 笑い過ぎて涙を浮かべていると、急に有仁から緊張感が漂い始め、より懸命に落ち着かせようと肩を揺すってくる。 構わずに蹲って笑っていると、いつの間にか目の前には足が見えていて、誰かが佇んでいる事を察して顔を上げてみる。 「よお、芦谷!」 「よおじゃねえよ、バカ。いつまでも笑い転げやがって失礼な奴だな……。何しに来たんだよ、お前は」 「まさかマジでお前に会えるとは思わなかった。会えて嬉しいぜ、芦谷!」 「俺はちっとも嬉しくねえ。お前に会うとろくな事がない」 「そんな照れんなよ!」 「照れてねえよ。どうしたらそう見えんだよ」 多少は落ち着いてきたようで、ゆっくりと立ち上がりながら言葉を紡ぐと、芦谷が盛大な溜め息と共に答え、目の前で不満を露わにしている。 芦谷の方が幾分か目線は低く、程好く遊ばせた花葉色の髪と、整った顔立ちが視界に収まる。 「元気そうじゃねえか。全然顔見えねえから何処かで野垂れ死んでるかと思ったぜ」 「お前こそ相変わらず無駄に元気そうだな。こんな所にまでやって来るなんて随分と暇なんだな、お前」 「まさか本当にお前が居るとは思わなかったけどよ。族潰しはもうやめちまったのかよ。勿体ねえなあ、すっかり落ち着いちゃってるじゃねえか」 「いつまでそんな呼び方してんだよ。いい加減やめろっつってんだろ、この喧嘩屋。顔見て満足したんならとっとと帰れ」 「身体鈍っちまったんじゃねえの? 俺とやり合うのが怖くなったのか?」 「誰がいつ怖くなっただと? お前こそ不様な姿を仲間へ晒さずに済んで内心安心してたんじゃねえのか?」 「あ?」 「なんだよ」 和やかな雰囲気かと思えば、会話が進んでいくにつれて物騒な空気が舞い込み、一歩も譲らずに双方睨み合っている。 とうにお手上げ状態の有仁も、申し訳程度に声を掛けてはみるものの案の定聞き入れられず、ナキツへと身振り手振りで現状を訴えて助けを求めている。 「俺に負けるのが怖いなら初めっからそう言えよ」 「誰がいつお前なんかに負けるって? 寝惚けてんのか? まだ目ェ覚めてねえんなら水ぶっ掛けてやろうか」 「テメエこそ寝惚けてるみてえだからぶん殴ってやろうか。いい加減負けを認めろよ、往生際がわりぃぞ」 「だから誰がいつお前なんかに負けたんだよ。言っておくが強いのは俺だ」 「あ? テメエこそ何言ってんだよ。俺の方が強いに決まってんだろバカじゃねえの」 「バカはお前のほうだろ」 「いやテメエだ」 「お前だ」 「だからテメエだって言ってんだろ、うるせえよ!」 「うるせえのはお前のほうだろ! バカは引っ込んでろよ!」 「なんだと!」 「やんのか!」 次第に程度の低い争いになっていく中で、いよいよこれはもう駄目だと諦めたらしい有仁が離れ、ナキツの元へ近付いていく。 「ホントだね! ナキツさんが言っていた通り、二人ともとっても仲良しなんだね!」 「仲良しって、言っていいんすかねえ……。ていうかもう、ただの悪口になってんじゃん。バカとかアホしか言ってないんすけど、あの人達……。子供かな……?」 「微笑ましくていいんじゃないかな。なんだか前よりも砕けているように思えるし、二人とも楽しそうにしているかなって」 「楽しそう、か……? 目も当てられないくらい低レベルな争いになってきてるからそろそろ止めない? ナキっちゃんフィルター掛かりっ過ぎっしょ。そろそろみっともないからやめさせようぜ……?」

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