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合縁奇縁

語尾は力無く、悩める様子で視線をさ迷わせており、藁にも縋りたい想いなのであろうか。 常に冷静で、殆ど感情を露わにする事もないけれど、それでも隠しきれない心情が滲み出ている。 出来るだけの術を試し、結果として八方塞がりへと陥り、目前にて佇む青年が眉根を寄せている。 誰かに頼らざるを得ないくらい、どうやら彼は相当追い込まれているようだ。 「それで、見るからに怪しげなそのブツはどうしたんだ? 置いてきちまったのか?」 「いや、持ってる。けど……、今手元には無いな」 「そうか。お前が持ってるならいい」 「後でお前に渡しておきたい。俺が持っているよりも、有効な手掛かりとして使ってもらえそうだからな……」 「持たされんのは別に構わねえけど……、何処まで掘り下げられるかだな」 自然と腕組みし、聞かされた事案について考えてみるものの、現時点では到底暴けそうにない。 最近出回り始めているのだろうか、噂ですら耳にしていないし、少なくとも周囲ではそういった異変は起きていないと断言出来る。 けれど、居所と群れの気性を変えればどうだろうかと巡らせて、何かしら知っていそうな連中がすぐにも思い浮かんでくる。 寧ろまた奴等が関わっているのではないかと思えてしまい、当たり前に信用出来ないのだから仕方ない。 「そんな怪しげなもんに手ェ出す奴がいねえから、俺んとこで手掛かりになりそうな話は出てこねえかもしんねえけど、まあ……知っていそうな連中のツテくらいならある」 「そうか……。居所さえ分かれば行ってくる」 「は? お前……、一人で行く気か?」 「ああ。なんだ……? 何かおかしいか」 「あ、いや……、別におかしいって事はねえけど……。一人で行くのはよせ。て、俺が付いて行けばいいだけの話か……」 「真宮……?」 考え込んでいると、芦谷が怪訝そうに首を傾げており、束の間の静寂が風と共に流れていく。 自陣でも、追おうと思えば何かしらの調べはつくかもしれないが、わざわざ人手を割くよりもきっと、自ら知り得そうな存在へと接触するほうが早い。 顔も見たくねえけど……、アイツならもしかして、芦谷が求めている事を何か知っているかもしれないな。 眉を顰め、思い浮かべるだけで腹立たしいけれど、背に腹は代えられない。 「お前は残れ、て言っても無理だよな……」 「ああ、無理だな」 「だよな……。大人しく言う事聞いてくれるような奴じゃねえもんな、お前……」 「お前だってそうだろう。何を今更」 白銀が統べる群れに関わろうなんて、そんな面倒な役目は自分だけで十分なのだが、芦谷を退ける良い方法が見つからない。 足手まとい、だなんて説得は出来ず、寧ろ彼が居てくれたら百人力である。 かといって、そのような争いには極力巻き込みたくないのだけれど、いざという時には背中を預けられる程の強さである事はよく分かっている。 いや……、ヴェルフェと、漸と会ったからって、何もすぐ殴り合いになるわけじゃない……。 それどころか……、と考えて一瞬躊躇うも、彼と共に居るところを見られたくない気持ちが強いのだと行き着いて、混乱する。 他の誰にも見られたくない、きちんと取り繕えているか自信もなければ、白銀が何を仕掛けてくるかも分からないからだ。 愚蒙な間柄を晒すような真似は流石に避けても、あの男が大人しくしてくれるとは到底思えない。 そのような輩に、芦谷を会わせてしまうのは嫌で仕方がなく、出来る事なら単独で接したいところなのだが、それも難しい。 そんな事を自然と考えてしまう現状に嫌気が差すも、止められる術も無ければ、自信を奪われている。 「真宮」 呼ばれてハッとして、また知らず知らずのうちに囚われていた事に気が付いて、やりきれなくなる。 焦点を合わせれば、間近で見つめられており、何の話をしていたか思考を働かせていく。 「悪い……。ぼんやりしてた」 「いや、構わねえけど……。具合でも悪いのか?」 「そんなわけねえだろ。ピンピンしてんじゃねえかよ」 「ならいいんだけど……、何か様子がおかしかったから……、何となくだ」 じっと見つめられて耐えかね、思わず視線を逸らしてしまう。 何度引き離そうと試みても、気が付けばあの男と顔を合わせていて、ますます後戻り出来ない深みへと引き摺り込まれていくようだ。 望んでなんていない、たった一度ですら願ったこともない。 それなのにどうして、最も憎むべき相手との関係を断ち切れず、未だ手を取り合っているのだろうか。 それはお前が、無力だからだ。 「その話、俺にも一枚噛ませて頂けますか」 「はいはい! もちろん、俺もッスよ~!」 芦谷と向き合っていると、唐突に予期せぬ声が飛び込んできて、視線の先にはいつの間にか見慣れた者達が立っている。 「お前ら……、いつから其所に」 芦谷が振り返り、驚いた様子でやり取りを見守っており、事態はどんどん思惑とは外れた方向へ転がり落ちていく。 「いやあ、お二人さんを呼びに出て行ったかと思えば全然戻って来ないし、行けばナキっちゃんが盗み聞きしてるじゃないすか!」 「ちょ、有仁……。すみません……、そういうつもりではなかったんですが、出ていくタイミングを失ってしまって……」 「だから俺もとりあえず隠れてコソコソ聞いてたんすけど、これはもう事件の予感ッスね! お供が必要じゃないすか~!?」 ますます収拾がつかなくなってきたと頭を抱えたいが、知られてしまったからにはどうする事も出来ず、気を抜いて話へと集中し過ぎてしまっていたようだ。 芦谷だけならまだ良かった、けれども今となってはナキツと有仁がいる。 皆まで言わなくても、きっと彼等にはこれから探ろうとしている場所も、人物でさえも把握されている。 「あんまりぞろぞろと行動すんのは……」 「大丈夫ですよ。ひとまずは俺達だけで、必要に応じて応援を呼ぶなりしましょう」 「まず行くとこっつったらあそこッスよね~! いやあ縁があるッスね! 何かと!」 「縁なんて持ちたくねえけどな……」 切り離すのは容易でなく、共に行動するより他はない。

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