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鬼事遊び 〈1〉

「まさかこんな日がやって来るとはって感じッス……」 奥へと進み、振り返りながら有仁が呟き、居合わせた面々を順に見つめる。 一室には硝子製のテーブルが鎮座しており、自然と両者を隔てる境界となる。 床は漆黒で覆われ、卓を挟んでいるソファも同様の色合いであり、所々にクッションが置かれている。 視線を巡らせれば、漸を追い抜いてエンジュがずかずかと歩いており、奥まで進むと誰よりも先に腰を下ろして寛いでいる。 背凭れに身体を預け、大柄な青年は態度もご立派であり、愉快とばかりに周囲を見つめている。 傍らには間接照明が設けられ、暖色に包まれながらエンジュは向かいを眺め、大層機嫌が良さそうである。 「何かあったのか」 有仁に続き、芦谷が歩を進めて声を潜ませ、自然と奥を目指していく。 窓は無く、完全に閉ざされた一室であり、退路は一つしかないようである。 天井から吊り下げられた照明が仄かな光を宿し、傷一つ見当たらない机上を美しく映えさせている。 「あ、そっか。咲ちゃんは知らないッスもんね。まあちょっと……、色々あったんすよ」 「そうなのか……?」 「あ~、何から話したらいいのやらって感じッスけど……。とにかく仲良くはないんで、特に気ィ遣う必要もないっす」 「そうか……」 有仁、芦谷の順に腰掛け、互いに顔を寄せて何事か話しており、時おり頷いては視線を通わせている。 そういやろくに説明してなかったもんな、と今更ながらに思い返し、芦谷には申し訳ない事をしてしまったなと感じる。 きっと有仁が、関わりについて述べているのだろうと思うが、詳細を語れる程の猶予は無いであろう。 「あ、ただ……、なるべくナキツの側に居てやってほしいんすけど、いいすか?」 「ナキツ……? アイツがどうかしたのか」 「いや……、う~ん。アイツ今スーパー気ィ立ってて……」 「特にそんな風には見えないけどな……」 「そうっすよねえ……。でもアイツ今スゲェカッカしてるんで、出来れば咲ちゃんに付いててほしいかなって。たぶん真宮さんや俺じゃ……、今は逆効果だろうなあ。咲ちゃんの距離感が丁度いいんすよ。めんどいかもしんねえけどちょっとヨロシクっす!」 「ああ……。それは全然、構わねえけど……」 密やかな会話をしている横へ、表向きは落ち着き払っているナキツが腰掛け、芦谷が窺うように視線を向けるもすぐに逸らす。 テーブルを挟んだ向かいでは、漸が先へと促すように佇んでおり、ヒズルが前を通り過ぎていく。 そうしてエンジュの隣へと腰掛け、見届けてから漸がようやく動き出し、ヒズルの傍らに静かに座る。 望んでいた展開であるが、いざ目の前にすると長居したくない光景であり、なるべく手短に済ませたいと考えてしまう。 「どうしたの……? そんなところに突っ立って」 「真宮さん……? どうかしましたか」 暫く突っ立っていると、漸とナキツに声を掛けられ、視線を向けられる。 「何でもねえよ」 多くは語らずに踏み出し、さっさとナキツの傍らへと移動して腰を下ろし、ゆっくりと話をする舞台は整ったようだ。 「見ねえ顔もいるけど、テメエらとはマジで久しぶりだよなァッ~!」 「いやもう久しぶり過ぎて感激したいところっすけど全くの虚無っすわ」 「ハハハッ! またいつでも相手してやるぜ~? 今度はケリつくまで離さねえからなァッ」 「うわ超遠慮してえめんどくささなんすけど……」 「まあ真宮の時みてえに飯食うだけでもいいぜ!」 「え? 飯って……、え? 何すかそれ」 「あァ? あ~コレ内緒だったか?」 「ややこしくしやがってこの野郎……」 溜め息を漏らしながらエンジュを睨み付けるもすでに遅く、疑問符を浮かべた視線が絡み付いてくる。 「彼と会っていたんですか? 初耳ですね」 「ちょっとどういう事すか、真宮さ~ん! え、つうかそっち側はみんな知ってたんすか!?」 向かいで頷く面々によってますます視線が集中し、予期せぬ窮地に陥る。 「うっ……、仕方ねえだろ! 知らなかったんだよ、コイツだって!」 「正体を隠して近付いたという事ですか?」 「あ~別にそんなつもりはなかったんだけどよォ、全然気付かねえからまあいいかってな! ハハハッ!」 「気付くだろ~! コレは気付くだろ真宮さ~ん! 俺ちゃんと話したっすよねえ、コイツの見た目!」 「いやテメエらは会ったことあるからそう言えるだけでまさかコイツがそうだとは思わねえだろゴーグルもしてねえし髪も結んでねえし!」 「なに~!? そりゃ完全にそちらさんが悪いっすわ~! 真宮さんの節穴っぷりを舐めちゃいけない! 本体外されたら誰か分かんないに決まってるじゃないすか!」 「おま……、どっちの味方してんだよ今……」 庇っているのかけなしているのか判断に迷うも、有仁はお構いなしに言葉を並べており、軽い気持ちでうちのヘッドを弄ぶのはやめて!とかなんとか言っているので止めたい。 「そうだな。本体を外したら誰か分からないからな」 「まあなァッ~、あん時は本体置いてきちまったからなァッてつっこめそろそろ! ゴーグル無くてもわかんだろテメエらは!」 べしっ、とエンジュに肩を叩かれるも平然と煙草を取り出しており、ヒズルは慣れきっている。 机上に置かれていた灰皿を引き寄せ、重ねられていた一つを差し出すと、吸いたければ吸えと暗に促される。 「何事も、無かったんですね……?」 「ああ、何にもねえよ。あの通りの野郎だしな」 「……そうですか」 「ナキツ?」 「いや、いいんです。何事も無ければ、それで……」 視線を合わせようとはせず、感情を呑み込むように静かに話し、それが何だか不自然に映り込んで気に掛かるも真相は語られない。 向かいでは、ふっと笑みを湛えながら漸が視線を注いでおり、本題へと入るにはまだ少し時間が掛かりそうである。 「はっきり言ってあげたらいいのに。どうして話してくれなかったの? て。他には何にもないの……? て」 反射的に鋭い視線を注ぐも、食えない青年は微笑みを浮かべるばかりであり、過剰に反応を示せば怪しくなる一方だと戒める。

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