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鬼事遊び 〈1〉
目前では、銀髪の青年が優美なる笑みを浮かべ、此方をじっと見つめている。
相変わらず、左の眉尻には銀色のピアスが収まり、鈍く輝きを帯びている。
作り物のように、色白で整う顔立ちは美々しく、品の良い佇まいを醸し出す。
だが、内で燻る揺らめきは正反対であり、獰猛な刃が其の身には巣食っている。
「貴方達にもしもの事があったらいけないから、ここは二人一組で行動しましょう!」
視線を向けると、摩峰子が佇みながら見渡し、これからについて触れている。
幾ら手を組むとはいえ、ヴェルフェを信用したわけではないので、単独行動を避けられる点は望ましい。
流石に群れで動けるとは思っていないが、それでも仲間をある程度は固められるのならば、多少は離れていても安心出来る。
摩峰子をよく知らないにしても、少なからず漸よりは信用に足るであろう。
「そうねえ……。まず、ヒズルは除外ね! 私の手助けをしてもらうわ」
「ゼッテェ雑用だなコレ。ま、頑張れよ!」
考えるように顎へと手を添え、程無くしてヒズルを指差す摩峰子を見て、奥ではエンジュが口を開く。
そうして傍らを見つめ、軽快に肩を叩きながら声を掛けるも、ヒズルといえばやはり淡々としている。
名を紡がれても、顔色一つ変えなければ視線すら向けず、興味無さそうに紫煙を燻らせている。
つうか……、まさか編成ってコイツが決めんのか……?
ヴェルフェに委ねるよりはマシであるが、だからといって摩峰子が全てを決めてしまうには、出会ってからあまりにも間もない。
彼女の手伝いをするのだから、有利に事が運べるような組み合わせをきっと考えてはいるのだろうけれど、複雑な思いが絡み付く。
「じゃあ、まずは……漸君と真宮君で一組ね!」
色々と考えた末、それでも予期せぬ組み合わせを唐突に告げられ、暫く目が点になり思考が停止する。
恐らく誰もが予想だにしなかった言葉であり、いつの間にか場がしんと静まり返っている。
「え……? あら? 何か不味い事言ったかしら」
あからさまに空気が変わり、事情を知らないまでも何だか緊張感に包まれている事を察し、摩峰子が周りを見てはおろおろする。
「ちなみに……、どういう意図での組み合わせなんでしょうか」
側に立っていたナキツが声を掛け、摩峰子は視線を合わせてから暫し間を空ける。
「う~ん……。だってほら、正反対な二人が並んで立ったら映えるじゃない?!」
「あ~、なるほどな。テメエの趣味丸出しなだけっつうことだな!」
すかさずエンジュが割って入り、つまり特に何も考えてはいなかったという事が分かり、ますます頭を抱えたくなる状況である。
「摩峰子さんはきっと、我々と彼等の関係をよくご存知ではないのでしょう。もちろん協力はしますが、この組み合わせは……」
確かに摩峰子は、ヴェルフェとの間に横たわる因縁を理解してはおらず、きっと協力してくれている友人とでも思っている。
だからこその組み合わせなのだろうが、まさかの展開に閉口し、ナキツは努めて柔らかに言葉を紡ぎながらも、断固として受け入れられないという意思を侍らせている。
「いきなり大胆な組み合わせッスねえ。激突したら絶対にやばいやつ……」
「……そんなにやばいのか?」
「そりゃそうっすよ、アタマ同士っすから。これでもし潰し合いにでもなった日には大変なことになるっすよ~? そんな簡単に挑発に乗る人じゃねえけど、でも銀髪野郎はそういうとこ上手いからなあ……。まあつまり、超心配って感じッス」
有仁の呟きに芦谷が返し、こそこそと身を寄せ合って話をしている。
エンジュは始めこそ驚くも、今では楽しそうに行く末を見守っており、ヒズルは何ら先程と変わりない。
「せっかく協力するんだから、混ぜて組み合わせるのはとても良い事だと思うけど、真宮さんが駄目なら君でもいいよ……? ナキツ君」
見透かすように漸が口火を切り、ナキツと組んでもいいと微笑むも、それこそ受け入れられない事態である。
芦谷でも、有仁でも、自陣における誰であっても漸とは組ませたくなく、それならば自分が相手をしていた方が遥かにマシだ。
一番信用出来ない相手に仲間を任せるなど、それこそ最も許されない。
「いいですよ」
少しの間を経て、ナキツが冷え冷えとした双眸を注ぎ漸に声を掛けるも、遮るように口を開く。
「変える必要なんかねえ。テメエの相手は俺だ」
「真宮さん……、何を」
「そっちで徒党組まれんのも面倒だが、だからってうちの誰かを引っ張られんのも困る。それなら俺がコイツと組んだほうがまだマシだ」
「俺は納得出来ません。よりによってどうして真宮さんが彼と……」
「お前らと組ませるよりはいい」
「それは真宮さんにとってはいいかもしれませんが俺はっ……」
「な、何か揉めてるみたいだけど、大丈夫かしら……?」
ナキツが聞き入れず、何を言っても食い下がってくる様を見て、摩峰子が心配そうに漸へ近付く。
「大丈夫ですよ。彼はとてもいい子ですから、最後には聞き入れてくれますよ。それがどんなに納得のいかない事でもね……」
結局は、ナキツに逆らうことなど不可能だと暗に告げ、白銀は静かに微笑みながら現況を楽しんでいる。
どれだけ納得がいかなくても、食い止めたい事態でも、それでも最後には意思を尊重してこうべを垂れるしかない良い子であることを漸は理解している。
「異論は……?」
「無いな。決定に従う」
傍らへと白銀が問い掛ければ、煙草を灰皿へ押し付けていたヒズルが答え、奥ではエンジュが同意と言わんばかりに片手をひらひらと揺らしている。
「……あ、ナキツとは俺が組む。別に問題はねえよな……?」
暫く傍観していた芦谷が、ハッと使命を思い出したかのように声を上げ、隣では有仁が親指を突き立ててナイス~! と声を上げており、向かいでも異議なく受け入れられている。
「アレ……? てかそうなると俺の相方って……」
「よォ~! クソチビ! ヨロシクなッ!」
「ぐア、やっぱりか~! 超ショック! なんでゴーグル野郎なんすか~!?」
「まあ楽しくいこうぜ~!? 遊んでやっからよォ!」
「弄ばれる気なんて更々ないっすからね!? もうどうやって協力しろと!? コレと!」
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