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庇護者 3

できるわけねえだろ……。 雛姫に迫られ、胸中で呟きながら、心情を表すかのように引きつった笑みを浮かべる。 嫌なら殴れと言われて遠慮無く手を上げられる程、自分は非情には出来ていない。 単に甘いだけかもしれないが、敵意の無い相手を叩くのは気が引け、手加減しようとも傷付けてしまうだろう事は目に見えている。 かといって大人しく要求を呑むわけにもいかず、どうしたものかと頭を悩ませていた。 「殴らないの?」 「殴れるかよ」 「もう、優しいんだから。てことで、いいよね」 「おいおいおい、ちょっと待て。何がいいんだよ」 「同意を得たと思って」 「同意はしてねえからな!」 懲りずに事を進めようとする雛姫を制止しつつ、ベッドの上で攻防を繰り広げる。 何が一体どうなってんだ……。 気が遠くなるも、好きにさせるわけにはいかないのでひたすら押し問答を繰り返す。 「も~! 凌司くんてば恥ずかしがり屋なんだから~!」 「なんでそうなるんだよ……」 「だったらちょっとだけ触らせてよ。それならいいでしょ」 「だから良くねえって言って」 「ちょっとだけだから! ほんの少し! こうやって」 何をするかと思えば、制止をすり抜けて腕を伸ばし、衣服の上から胸へと触れてくる。 そのまま掌を押し当てられ、理解が追いつく前に遠慮無く胸を揉まれていく。 「おいおい……、何やってんだ」 「わ~! 柔らかくて触り心地いい~!」 「ちょ、お前いい加減にしろ。殴るぞ」 「殴れないくせに。アレ、もしかして結構敏感?」 指の間に挟むように尖りを持ち上げられ、生地に擦れて僅かな刺激が駆け抜けていく。 思わず雛姫を止める手に力が入れば、察しのいい彼は状況の変化をつぶさに感じ取り、止める間もない程に素早く衣服の中へ手を滑り込ませていく。 「おいっ……」 「隙が多いなあ。僕、心配になっちゃうよ。こうやって悪い事されないか」 そうして雛姫が近付いて、唇が触れ合いそうな程の距離に達した時、突如として辺りへと物凄い音が響き、驚きに一瞬動きを止める。 「えっ、なに? 何の音?」 唇は触れ合う事なく離れ、驚いた様子で雛姫が辺りを見回しており、次いで更なる物音が荒々しく響き渡る。 それは扉から響き、何者かが入ってきたのだと気付くのにそう時間はかからなかった。 容易に想像がつく人物を思い浮かべ、瞬時に寝台から降りて歩を進めると、確かに外から入ってきたであろう扉の前には誰もいない。 それならばと浴室の扉に視線を向ければ、目印のように血がべったりと付着しており、何を考えるまでもなく扉を開け放つ。 「漸!? おい、どうした! 何があった!」 視線の先では、鏡の前に一人の男が佇んでおり、濡れた髪を垂らして俯く姿からは表情が読み取れない。 ザア、と絶え間なく水が流れ、洗面台の前で立ち尽くしたまま黙り込み、不気味な静けさを漂わせている。 「漸……?」 ただならぬ雰囲気に息を呑み、声を掛ける事すら一瞬躊躇うと、遅れて現れた雛姫が慌てた様子で声を上げる。 「ちょっと、どうしたのそれ! アイツがやったの!?」 「アイツが……?」 此処から逃れた男を思い浮かべるも、そんな力量があるようには到底思えなかった。 よく見れば頬にも怪我をしており、一体この短い時間に何があったのかと、ますます訳が分からなくなる。 「僕、何か手当するもの探してくる!」 「ああ、頼む」 こうしてはいられないと、慌てて部屋から出て行く雛姫を見送り、残された両者の間には相変わらず沈黙が流れていく。 「漸……。お前、大丈夫なのか……?」 遠慮がちに声を掛けるも、彼の耳には届いていないのか、危うさを漂わせながら鏡の前で力なく立ち尽くしている。 先程までの扉を蹴破る荒々しさからは考えられないような佇まいに、これ以上何と言葉を掛けたらいいのかも分からずに困惑する。

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