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庇護者 8
漸の様子を気に掛けながら、雛姫が床に置いていた救急箱の後片付けをする。
「二人はさ、これからどうするの?」
救急箱の蓋を閉めたところで、雛姫が順番に顔を見つめながら今後の事を問い掛ける。
「いつまでも此処に居たってしょうがねえしな。仲間の様子でも見に行くか」
ナキツや有仁、芦谷の事を思い浮かべながら、今頃どうしているだろうかと気に掛ける。
だが、口では仲間をいの一番に気遣うも、漸をこのままにしておけない気持ちもある。
彼を今、一人にしてはいけないような気がする。
独りで放り出したところで、ヒズルやエンジュの元へ帰るようには思えない。
寧ろもっと遠くへ、誰にも知られない場所へ今にも消えてしまいそうな危うさすら感じられてしまう。
彼に配慮する義理なんてなければ、どうなろうと知った事ではないはずなのに。
それでもどうしてか、このまま見捨てて行く事が出来ない自分がいる。
「漸君は、もう少し此処で休んでいったら?」
「ありがとう。でも、長居するつもりはないよ。しくじってごめんね」
「そんな事……! 全然気にしないでよ。寧ろこんなに怪我させちゃって……、僕のほうこそごめんね」
「それこそ気にしないで。そんな事より、何か着るものはないかな。あの服もう、ダメにしちゃったから」
「あ、そうだよね! 待ってて! 今ちょっと聞いてみるから!」
慌てた様子で雛姫が立ち上がると、携帯電話を取り出して何処かへと連絡をする。
やがて話し始めると、出入り口の方へと歩を進めていき、急に静けさを取り戻した室内にて二人で取り残される。
「お前、どうするつもりだ」
「そんなこと聞いてどうするの?」
「チームに戻る気はねえんだろ」
「真宮ちゃんには関係ねえんじゃねえの」
「今はテメエと手ェ組まされてるからな。嫌でも関係あるんだよ」
「なら俺の介抱でもしてくれるわけ? 痛くて痛くて泣いちゃいそうな俺を」
「それくらいで音を上げるようなタマじゃねえだろ。もっとひでェ目にあったって文句言えねえんだからな、テメエは」
「相変わらず手厳しいなァ、真宮ちゃんは」
そうは言いながらも、特に気にしているようには感じられない。
そんな輩を見捨てられない自分にげんなりするも、怪我人である漸を放っておくわけにはいかなかった。
「はい、これ! サイズ合うといいんだけど!」
「もう持ってきてくれたのか。随分早かったな」
「うん! 仕事仲間が近くにいたからさ、着替え譲ってもらったんだ~!」
「ありがとう。後で返すね」
「いいのいいの! 僕から埋め合わせしておくから!」
「だとよ。有り難く貰っとけ」
雛姫から黒地のシャツを手渡された漸が、しげしげと見つめてから無言で袖を通していく。
雛姫に礼を述べて、漸が衣服を身に纏う姿を見てから、この後の事を静かに考える。
とりあえず、コイツ連れて出てからだな。
思い通りにいくわけもない相手に神経を尖らせても仕方が無いので、目の届く場所で見張る事を念頭に置く。
そうして漸が立ち上がったのを切欠に、この場を後にする空気へと緩やかに切り替わっていく。
「ホントに大丈夫なの?」
「安心しろ。送り届けるくらいはしてやる」
「それならいいんだけど。無茶しちゃダメだからね!?」
「分かった分かった。じゃあ、ありがとな。世話になった。また今度ゆっくり会おうぜ」
「もちろん! さっきの続き、絶対しようね~!」
「ハァ!? おい!」
何気ない会話のはずが、雛姫が突如として腕を引き寄せ、前のめりになったところで頬へと口付けをしてくる。
驚いて慌てるも、雛姫は楽しそうに笑い声を上げており、油断も隙もねえ奴だと自然と溜め息が溢れていく。
「へえ……、何だか楽しそう。真宮ちゃん、後で何があったか教えてくれる?」
「べ、つに何もねえ!」
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