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庇護者 9

予想外の出来事に見舞われ、不覚にも狼狽えてしまう。 何とも言えない感情を押し殺し、雛姫の後を追えば漸も上着を手にして付いてきているようで、騒動に見舞われた一室から三人揃って出て行く。 「凌司君てば、さては照れてるな」 「照れてねえし、からかうな」 「そんな怒んないでよ~! 可愛いな~! ますますほっとけないじゃん!」 「だからお前な!」 窘めたところで雛姫には効果がなく、楽しそうに笑顔を浮かべながら通路を歩いている。 漸といえば、先程から一言も発さず付いてきており、それが薄気味悪くもある。 標的を逃した事をそこまで気にしているようにも見えないが、彼なりに何か思うところでもあるのだろうか。 相変わらず何を考えているのかは分からなかったが、大人しく後を付いてきている事を確認して少なからず安堵する。 「じゃあ、僕は此処で」 「え、降りねえのか?」 「うん。後は二人でごゆっくり~」 「いちいち引っ掛かるな……」 一階まで、共に降りるものだと思い込んでいた為に、エレベーターの前で急に別れを切り出されて驚いてしまう。 「まだ、やる事あるからさ。二人とも気を付けてね。危ない奴等がうろついてるかもしれないし」 漸を見つめ、身を案じながら雛姫が言葉を紡ぎ、程なくして視線が交わる。 「ああ、色々ありがとな。助かった。そのうちまた会うだろうし、お前も気を付けろよ」 「もちろん! こちらこそ、ありがとね! 二人にはまた会いたいな!」 二、三言葉を交わしたところでエレベーターが到着し、漸と共に乗り込んでいく。 扉が閉まるまで雛姫は手を振り続け、そんな彼の優しさを心地好く感じながら、やがて静けさが両者の間を覆っていく。 傍らを見ると、物憂げな横顔が映り込み、痛々しい腕の傷は衣服によって隠されている。 途中で止まる事もなく、あっという間にエレベーターは一階へと辿り着き、扉が開くと同時に息が詰まるような静寂が和らいでいく。 「あ、おい」 声を掛けた頃には漸が先を歩いており、此方には目もくれずにエレベーターを下りると、一人で何処かへ行こうとする。 「何処行く気だ」 「真宮ちゃんには関係ないんじゃない?」 「このまま野放しにしたら何するか分かんねえからな」 「別に何もしねえけど」 「信用出来ねえ」 「なら勝手にすれば? 雨降ってるけど」 「げ、マジかよ」 ホテルから出ると、しとしとと雨が降っており、濡れた路面が街灯によって朧気に情景を映し出している。 雨によって、気紛れに風が通り過ぎるだけでも肌寒く感じられ、此処を訪れる前とは随分と景色が様変わりしてしまった。 しかし漸は、悪天候を気にする様子も無く、雑踏に紛れて足を踏み出していく。 「雨に濡れんの一番嫌がりそうなのにな」 「今更何を気にしろって? お前のせいで散々な目に遭った」 「は? 俺のせいかよ」 「大体はお前のせいだろ」 「なんだよ、大体って。適当じゃねえか」 「それにしても真宮ちゃんは、雨なんて気にもしないよね」 「おい、どういう意味だ。絶対バカにしてんだろ」 不満を露わにするも、漸はさして気にする様子もなく、天から降り注ぐ雨に濡れながら夜の街を歩いていく。 一体何処へ向かっているのか、特に当てもないのか、傍らを歩む漸を見つめるも、彼の表情から心情を察する事は難しい。 雨が止む気配はなく、これなら先程のホテルに留まっていたほうが良かったかと思うも、外へ出てきてしまったからには今更のこのこ引き返すわけにもいかない。 何よりも漸が、足を止める様子もないので、不服ながらも隣を歩いているしかない。 「おい、何処に向かってんだよ。当てはあるのか」 「さあ……、別に付いてこなくてもいいけど」 「そういうわけにはいかねえんだよ」 「そんなに俺と一緒に居たいんだ」

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