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庇護者 12

苦々しく後ろ姿を見つめ、一足先にビルへ入った事を確認すると、聳え立つ外観を見上げてから観念するかのように足を踏み入れていく。 内部へ立ち入ると、人気の無いロビーには漸だけが佇んでおり、客室選択用のパネルを大人しく眺めている。 「ねえ、真宮ちゃん。どれがいい?」 気付いた漸が振り返り、液晶を指差しながら口を開くも、一向に気分は晴れないままに傍らへと歩を進める。 「別に何だっていい。お前が決めろ」 「あ~、そういう投げやりな態度は良くねえんじゃねえの? 真宮ちゃんてばモテない?」 「うるせえなあ、さっさと決めろよ。どれも大差ねえだろ」 「まあ、確かに。つうか、ラブホって言うからにはもっと露骨な感じかと思いきや、意外に取り澄ました部屋が多い」 「そう言われてみれば……、まあ、そうだな」 眩しい程の光を放つパネルには、客室の一部分がそれぞれ映り込んでおり、使用中の部屋は選べないように薄暗く表示されている。 どれも綺麗で、豪奢な内装が施されており、さながらシティホテルのような華やいだ印象を感じさせる。 「どんなに取り繕ったって、こんなとこでやる事なんて一つしかねえのにな」 揶揄するかのように呟いた漸が、数ある中から一室を選ぶ。 「此処でいいの? 選んじゃったけど」 「何でもいいっつってんだろ」 「つうかコレ、後どうすんの? 鍵とかねえんだ」 「確かにな……。フロントもねえしな」 赤の他人であろうと彼と居るところなど見られたくはないのだが、それにしたって人気の無さに戸惑いが生じる。 「507だから、5階?」 「突っ立っててもしょうがねえし、とりあえず行ってみるか」 視線の先にエレベーターを見つけた事もあり、彼が選んだ部屋を目指して歩き出す。 「この失敗の言い訳どうするかな。ヒズルになんて言う?」 「さあな。お前が正直に言えば話が早いんじゃねえのか」 「正直ねえ……。真宮ちゃんてばまだ不満なんだ」 「当たり前だろ。アレで納得すると思ったら大間違いだ」 エレベーターの前に辿り着き、努めて冷静に会話をしながらボタンを押し、階上から下りてくるのを暫し待つ。 まともに彼の相手をしていてもきりがない事は分かっている。 言い訳をどうするか、とは言いながらも、とても真剣に考えているようには見えない。 それよりもどう掻き回して場を乱してやろうか、という思惑の方がしっくりときてしまい、時おり子供のような一面が顔を覗かせてくるように感じてしまう。 「雛姫からも話がいくだろ」 「何処行ったってなってるんじゃねえの?」 「それもそうだな……」 到着を知らせる音と共に扉が開き、面倒な事に自ら首を突っ込んでしまったかもしれないと今更ながらに思いつつ、二人でエレベーターに乗り込んでいく。 「なに? 今更後悔してんの?」 「そういうわけじゃねえ」 「眉間にめちゃくちゃ皺寄ってる。超不機嫌そう」 「お前のせいだろ、それは。煩わしい事ばっかしやがって」 額に手を添えてから前髪を掻き上げると、様々な想いを吐露するかのように溜め息を吐く。 壁に凭れ掛かる漸は、楽しむかのように笑みを浮かべており、彼の心情を知るには一筋縄ではいかない。 それでも放っておけずに、こうして進んで面倒事に関わってしまう自分は、本当にお人好しなのかもしれないなと呆れるような笑いが込み上げてくる。 「急に笑うとか気持ちわる」 「テメエにだけは言われたくねえよ。お前のがよっぽど気持ちわりぃ事してんだろ」 「は? 例えば?」 「猫被ってんだろ、よく」 「ああ、大人しくて可愛い俺は好みじゃない?」 「そんな話はしてねえんだよ」 埒が明かないとばかりに話を切るも、彼は黙り込んでからも視線を寄越し、湛える微笑に含まれた意図の不明瞭さに居心地が悪くなっていく。

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