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庇護者 14

「おい、邪魔すんな」 上から順に外していると、不意に手の甲を撫でられ、指先が袖口から肌を擦っていく。 「真宮ちゃんも濡れてるね」 「見りゃ分かんだろ。お前じっとしてろ」 些細な一時ですら大人しく待てない彼の手が、衣服の留め具を外す手へと重ねられ、仄かな温もりが冷えた心情を表すかのように伝わってくる。 視線を向ければ、美貌の青年が伏し目がちに微笑を湛えており、触れた手を見つめながら何事か考えているのだろうか。 「なに考えてる」 「急に何? 別に何にも」 「お前は隠し事が多すぎるよな」 「いきなりどうしちゃったわけ? そんなに俺の頭ン中が気になる?」 艶めかしく指先で肌を撫でながら、蠱惑的な眼差しが誘うように絡み付く。 「外した」 「脱がせて」 「あ? そんくらい自分で」 「そんくらいならいいんじゃねえの? やってくれても。手ェ痛いし」 ひらひらと傷付いた手を振られ、何処が怪我人なんだよと思わず舌打ちを漏らすも、彼の思うがままに濡羽色のシャツを脱がせていく。 白磁色の肌が露わになり、黙っていれば儚げな美貌の青年は、見た目の印象を悉く打ち砕きながら次はベルトを外せとばかりに指し示してくる。 「俺はテメエの召使いかよ」 「心外だなァ。俺ならもっといい役あげてやるって」 「聞きたくねえ。つうか黙ってろよ、うるせえ」 「真宮ちゃんから話振ってきたくせに」 「別にお前の回答なんざ求めてねえんだよ」 溜め息混じりに悪態をつくと、彼のお望み通りにベルトの留め金を外し、後は好きにしろと言わんばかりに離れていく。 「え~、一人で入らせる気?」 「当たり前だろ、とっとと行ってこい」 呆れたような口調で返せば、不満そうにしながらも漸が踵を返し、珍しく聞き分けよく洗面所へと向かっていく。 しかし目を離そうとした時に、視界の端で身体が傾くのが見え、咄嗟に駆け付けて倒れそうになった青年を抱き留めてしまう。 「おい、大丈夫か?」 肩を抱きながら漸を見つめ、神妙な面持ちで青年の様子を窺う。 「そんな軽はずみに助けちゃっていいわけ? お人好しの真宮ちゃん」 「お前……」 「風呂場で倒れられても寝覚めが悪いよな? 早くおいで」 大人しく抱き留められたかと思えば、何事も無かったかのように腕の中から抜け出し、悪びれもせずに此の身を誘ってくる。 都合良く振り回されて腹が立つも、最早諦めの境地にもなっていて、呆れたように溜め息を漏らしながら悠々と去りゆく彼の背中を見送る。 そうして額へと手を添え、頭が痛くなるような事案に気が遠くなるも、彼の後を追う選択肢しかどうやら残されてはいないらしい。 「ハァ……、何でこうなったんだか」 元はと言えば自ら首を突っ込んだ結果なのだが、あんな奴放っておけば良かったと今更思ったところで時すでに遅く、今では軟禁状態だ。 何を考えているのか分からない男に手を焼きながら、未だ水の音がする浴室を目指して重い足取りで歩いていく。 開け放たれた浴室の扉の先には、浴槽の前で腰を下ろす後ろ姿があり、湯が張られていく様子でも眺めているのだろうか。 手当された腕は浴槽の縁に置き、もう一方の手は湯に触れているのか、時おり掻き混ぜるようにバシャりと音が鳴っている。 「何やってんだよ。そんな事ではしゃぐガキには見えねえぞ」 「見てコレ、泡になった」 「あ? うわ、マジか……。お前何しやがった」 首を傾げ、浴室へと足を踏み入れて中を確かめると、蛇口から注がれるお湯から次々に泡が立っている。 なんだこれは、と思わず後退りながら視線を向けると、漸の傍らにプラスチック容器が置いてある事に気が付く。 「ああ、置いてあったから入れてみた。スゲエ泡」 「何でも使えばいいってもんじゃねえぞ、お前……」 どうやら備え付けの入浴剤を入れたらしく、それにしたって適量なのかと疑う程に泡が続々と量産されている。 マジで頭がいてえ……。

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