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庇護者 16※
ぬるりと身体を滑る感触に視線を向けると、濡れた漸の手が無遠慮に肌を擦っている。
「おい、何やって」
「ああ、ダメだって。そんな乱暴に手ェ掴まないでよ」
「知るかよ、離れろ。ピンピンしてんだろ、テメ」
「コレ、濡れたらどうしてくれんの? せっかく手当してもらったのに」
「だったら大人しくしてろよ、テメエは!」
悪さに励む手首を掴めば、巻かれている包帯に気付いて少なからず躊躇してしまう。
彼の思惑通りに事が進むようで面白くないが、手当された箇所を濡らすのは気が引ける。
しかし漸は、そんな考えすら見透かすように指を這わせ、浴用石鹸に塗れた手を濡れた身体に纏わり付かせてくる。
「テメエは、いい加減にっ……」
「真宮ちゃんてさァ……、ホントお人好しだよね。ただのバカかもしれないけど」
自ら濡れようと手を差し出した漸に、考える間もなく蛇口を捻ってシャワーを止める。
何考えてんだ、と苛立つも、彼といえば相変わらず笑みを浮かべるばかりで真意を測る事は不可能に近い。
「おい……」
からかっていたかと思えば、急に黙り込んだ青年に気が付き、背後へ向けて声を掛ける。
だが応答はなく、無傷の腕が抱き寄せるように腹部を押さえ付けており、居心地の悪い静寂に晒されて調子が狂う。
後頭部へと額を押し付けているのか、急に凭れ掛かってきた彼を呼び掛けるも、暫くは息遣いだけが聞こえてどんな表情をしているのかすら分からない。
「どうした……?」
沈黙に耐えかねて声を掛け、背後の様子を窺おうとする。
「お前は、どうして……」
か細く紡がれた言葉に首を傾げるも、後に続くであろう想いを得られない。
声を掛けようと口を開くも、何と言うべきか思案していたところで、首筋に口付けをされて思わぬ刺激に肩を震わせる。
「お前、俺がいない間にアイツと何かあっただろ」
「あ? アイツって誰だよ」
「とぼけるなよ。雛姫しかいねえだろ」
「おい、やめろ。あるわけねえだろ」
「嘘が下手だよなァ、真宮ちゃんは。どこ触られたの?」
「だからお前……」
「手加減して……? 掴まれるとやっぱ痛いから」
思わず掴んだ腕が目に留まり、包帯に気が付いて咄嗟に力を緩めてしまう。
本当に怪我人かと疑う程だが、傷を負っている事は確かであり、思い切り彼の手を振り払えない現状に歯噛みする。
傷を負った手が腹部を撫で回し、石鹸に塗れた指先が下ろうとしたところで手を重ねるも、もう一方の手が嘲笑うように胸元を撫で回していく。
「優しいなァ、真宮ちゃんは。それともホントは触ってほしい……?」
「バカ言ってんじゃねえよ」
「俺が一人で頑張ってた時に、真宮ちゃんは何やってたのかなァ」
「お前の帰りを待ってただろうがっ……う、あっ」
「俺のこと待ってたの? 意外と可愛いところあるんだ」
「うっ……、テメ、いい加減に……」
「ぬるぬるして気持ちいい? 綺麗にしてあげる」
猫撫で声で語り掛けられ、今すぐ離れたいのに突き放す事も出来ず、彼の手が自身を無遠慮に扱いていく。
ぬるついた感触が纏わり付き、淫猥な音が浴室へと響き渡って、やめさせようと手を掴むも徐々に疼きが身体の奥から芽生えていくのを感じてしまう。
「怪我人は大人しくしてろっ……」
「手ェ止めちゃっていいの? もう、えっちな汁出てきてんじゃん」
「はぁっ、う……、て、め……」
「乳首触られんのも大好きだもんな、お前」
胸の尖りを押し潰すように指の腹で捏ね回され、時おり爪で引っ掻かれる。
身を捩れど抜け出せず、寧ろより快楽を深く受け止める形となってしまい、足下がふらついて壁へと手を付いてしまう。
そうしている間にも刺激を与えられ、過敏になっていく身体は熱情に目覚め、彼の手の内を分かっているはずなのにいとも容易く術中へと堕ちていく。
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