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庇護者 18※

意外な言葉が返ってきて、耳を疑う。 「嘘だと思ってる……?」 「ん……、信用はねえよな……」 「そんなに俺の口から言わせてえの? 真宮ちゃんてば、いつの間にそんなにおねだり上手になったんだろうね」 「ち、が……、誰がテメエなん、あっ」 「何度振り払っても、お前の事を思い出す。街にいても、誰といても、お前の事が頭から離れない。なァ、真宮。お前は……? お前の中には誰がいる?」 腹部を淫猥に撫でながら這い上がってくる腕が、逃がさないとばかりに首筋を鷲掴む。 「う、くっ……」 咄嗟に腕を掴んで外そうとするも、喉元に食い込んだ指はなかなか離れようとしない。 一方で、淫靡な自身には彼の指先が絡み付き、苦しみの狭間から絶え間なく快楽を引き摺り出されていく。 「く、う……、ぜ、ん……」 視界がぐらつき、息も絶え絶えに名を絞り出すも、憎悪にも似た行いは収まらない。 自身を責め立てられ、それどころではないはずなのに白濁はとどまることを知らず、苦しみと共に快楽が身体中を駆け巡る。 腕を掴んでもがき、だらしなく唾液が溢れても、下腹部の熱情はいやらしく昂ぶり、まるで苦痛すらも快感であるかのように蜜が堰を切って流れ出していく。 「あっ、うぅ……!」 白濁が零れていく中で、首筋の枷から急に解き放たれて思い切り息を吸い込み、涙が滲むほど咳き込んでしまう。 はあ、と疲弊した溜め息を漏らし、ようやく落ち着いたところで再び現れた指先が、尊ぶように首筋をやんわりと撫でていく。 「気持ち良かった?」 「はあ……、は……。ふ、ざけんな……」 「お前って、苦しいのも好きなわけ? いつもより感じてたんじゃねえの、うわっ」 何か言っていたが、聞く耳を持たずに蛇口を捻り、自分もろともシャワーを浴びせ掛けていく。 予期せぬ出来事に、流石の漸も手をかざしながら後退し、一矢報いたところで少しばかり気が晴れる。 「テメエはホント最低だな……。どうしようもねえ奴だ」 「あ、今更気付いた?」 「改めて思ってんだよ。少しでも心配した俺がバカだった」 「へえ、心配してくれたんだ」 「テメエと違って血が通ってるからな」 際限なく溢れる湯を止め、浴室から立ち去ろうと歩を踏み出せば、漸に腕を掴まれて呼び戻される。 「離せ」 「せっかくお風呂の準備したんだから、入ってけって」 「断る」 「アレ? 逃げねえんだろ? 真宮ちゃんは」 そんな事を言われて反論したい想いは山程あったが、どうにか溜め息へと封じ込めて押し殺し、水滴が伝う髪を掻き上げながら腕を振り払うと、不快感を露わに湯船へつかっていく。 それを見た漸が後に続き、微笑を湛えて湯へと入り込み、不機嫌な心情を窺うように視線を向けてくる。 「怒ってんの?」 「これで笑ってたらやべえ奴だろ」 「そういえば、まだお前の口から答えを聞いてなかった」 「何の事だよ」 「俺の事を思い出すのかどうかってやつ」 「そんな事聞いてどうすんだよ」 「別にどうも。ただ、俺の気持ちだけ聞いてだんまりはずるいんじゃねえのかなって」 「お前の言った事を信用しろって?」 「信用する必要はねえよ。ほら、嘘ついてるかもしんないし」 「話にならねえな……」 何度目かの溜め息を吐き、浴槽に背中を預けながら、ぼんやりと浴室を眺める。 首筋にはまだ、忌々しい彼の感触が残っており、問い質したところできっと、納得させられるような答えは返ってこないのだろう。 苛立ちを抑え、確かめるように頸部を擦り、不服ではあるが暖かな湯船につかる事で、ほんの少し気が紛れていく。 「お前は、どういうつもりなんだよ」 「何が?」 「ふらふらしやがって。お前の何を信用したらいい」 「難しい質問するね。尤もらしい事でも言えば、真宮ちゃんは俺を信用してくれるの?」 「さあな。怪しむだけかもしれねえ」 「結構信用ねえな」 「当たり前だろ」
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