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庇護者 21※

達しても、卑しい欲望が鎮まる事はなく、より猛悪な勢いで熱情が心身を脅かす。 「はぁ……、う」 呼吸するだけでも細心の注意を払い、甘ったるい息が零れそうになるのを堪える。 鉛のように重たい身体を引き摺り、壁に背を預けながらなけなしの力を込め、彼から離れるべく立ち上がろうとする。 しかし逃れるどころか、傍らにしゃがみ込んだ漸が腕を回し、脇の下を支えられてあらぬ感情が湧き上がってくる。 「あ……、なに、やって……」 「何って、立とうとしてるんじゃねえの? 手ェ貸してあげる」 「余計なお世話だ……、はぁ、あ……」 「ほら、俺の肩に腕回して……?」 脇腹を支える手に擦られる度、甘やかな痺れが我を見失わせようと全身を這い回る。 それだけで熱っぽく息が乱れ、涙腺が緩み、まっとうな思考力が少しずつ奪われていく。 漸から離れようとしていたというのに、今では息遣いをも感じられる程に密着し、同じ香りに鼻腔を擽られる。 ゆっくりと歩を進め、無意識に巡らせた視線が彼の横顔から離れず、自分が今どんな表情を浮かべているかなんて考えたくもない。 「そんなに見つめてどうしたの? しおらしい真宮ちゃんも、たまには悪くねえかも」 僅かなひと時のつもりであったが、思いの外じっくりと、漸の横顔を眺めていたらしい。 視線を向けられて我に返るも、人差し指で顎を撫でられるだけで劣情が迸り、咄嗟に離れようとよろめいた身体が後ろに倒れていく。 「そんなに逃げるなよ。傷付くだろ」 「どの口がほざいてんだよ……」 「昨日今日の仲でもねえのに、どうしてそんなに逃げるの? 俺を生かそうとしたくせに。責任取ってよ」 「ンなこと、知るかよ……。それ以上、近付くな……」 「なら、どうしたらいい? ああ、そっか。俺も対等になればいいわけだ」 真意を読み取れないまま見つめると、彼が取り出した黒い包みが目に留まる。 何を考える暇もなく、摘まんだ錠剤を口に含んで微笑むと、寝台に足を掛けてゆっくりと近付いてくる。 「やめろ……。来るな……」 「なんで……? そんな寂しいこと言われたら、俺泣いちゃうかも」 尻餅をついた寝台で後退りするも、大人しく見逃してくれるような青年ではない。 僅かな熱情を宿す瞳が見下ろし、仄かな影を落としながら少しずつ退路を絶ってくる。 「お前……、まだそれ残してんの?」 何を言われたか分からず困惑すると、彼の視線が腕に注がれている事に気が付く。 衣服がはだけて二の腕までが露わになり、漸が何を見ているのかをようやく察する。 「お前には関係ねえだろ……」 「真宮ちゃんのだァいすきな男だっけ。一崎 刻也って」 「お前……、なんで、それ……」 「ナイフ取られちゃったから消せないね、コレ。今度会ったら返してもらわねえと」 「おい……、答えろ……。調べたのか、あの人、を……んんっ」 動揺を嘲笑うように、顎を取って唇を奪い、舌が絡み付いて強烈な快感が舞い込む裏で、腕に鈍い痛みが走っていく。 「ん、んぅっ……、はぁ、あ……」 顎を伝う手に首を掴まれ、身動きも取れぬままに口内を犯し、腕に刻まれた敬愛の証へと爪が食い込んでいくのを感じる。 それでも口内を蹂躙される快楽が勝り、痛みを感じながらも遠い出来事のようで、昂ぶる熱が次第に後に引けなくなっていく。 「お、まえには……、関係のない、ことだろ……」 「関係ない、ね……。それで俺が大人しく引き下がるとでも? 少しは俺のこと理解してくれてると思ってたんだけどなァ……」 「俺が理解してるっつったところで、お前が素直に認めるとは思えねえけどな……」 「まあ……、それはそう。鋭いね、真宮ちゃん」 喉元に添えられた手が下り、肌を擦りながらはだけた胸元へと触れていく。 倒れ込んでいた身体は逃げ道を失い、指先が肌を滑る度に甘やかな刺激が増し、歯を食い縛って流されないように耐え忍ぶ。
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