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庇護者 26※

「うっ、あぁっ……」 髪を振り乱し、悪夢に魘されるかのように呻き、敷布を掴む手に力が入る。 抗う気力もなく、思い付きもせず、彼の手に翻弄されながら為す術もなく堕ちていく。 堪えるだけで精一杯で、それもいつ決壊するか分からず、思考はとうに限界を迎えている。 ぼやけた視界に映り込む青年は、今どんな表情を浮かべているのだろうか。 熱に浮かされながら徐々に現実味が薄れ、情欲に晒された意識が次第に混濁する。 そうして何もかもが、分からなくなっていく。 「あっ、あぁっ……、はぁ」 切なげな吐息が零れ、歯止めがきかなくなっている最中で、不意に頬へと温もりを感じる。 視界がチラつき、光が飛ぶような心地の中で、いつになく熱情を孕んだ眼差しを注がれる。 「い、やだ……、あぁっ」 恐れをなすように弱音が溢れるも、劣情で満たされていく身体は更なる快感を欲し、纏わり付く熱はとどまるところを知らないでいる。 逃れようと身動ぐ腰を掴まれ、より一層繋がりが深まり、いいところを貫かれて甘やかな痺れが容赦なく広がっていく。 「あっ……、やめ……、ぜん……」 「なんでそんなこと言うの? 俺から離れたいなんて、ホントにそう思ってる……?」 「はぁっ……、あ、う……」 「真宮……、目を逸らすなよ。俺を見ろ」 「あっ……、こんな……、こと、いつ、まで……」 「さあ……、お前にだって分かんねえだろ? そんな事どうだっていいんだよ」 (まじな)いのように脳裏へと刷り込まれ、正常な判断がどんどん出来なくなっていく。 どうでもいい事なのだろうか、決してそんな事はないはずなのに、劣情に支配された思考では彼の言葉が全てになる。 心地好く入り込んでくる言葉が、何の疑いも無く世界の中心となり、身を委ねたら楽になれる事が約束されている。 抗わなければいけないのに、いけなかったはずなのに、今ではどうしてそうしなければならなかったのか理由すらも見失っている。 「はぁっ、あ……、だ、めだ……」 「何が……?」 「ぜん……、だめだ……、あ、あぁっ」 「何がダメなんだよ。お前まで俺を拒むのか……?」 譫言のように零れる台詞に、果たして意味などあるのだろうか。 とうに我を見失い、夢うつつを彷徨っているかのような頼りなさで紡がれる拒絶に、力などもう有りはしない。 それでも彼には思うところがあるのか、思いがけず突き刺さった矢に過剰な反応を示し、青年からもまた普段の冷静さは失われている。 黙らせるように肌を打ち付け、奥を穿たれる度に快楽が滲み出し、だらしなく開ききった唇からは唾液と共に悩ましい声が零れていく。 止める事も出来ず、拒みきれないままに何度目かの限界が近付き、淫らな空気が尚も色濃く室内を支配している。 何の為に彼と此処へ来たのかも分からず、自分はどうしたかったのかも分からず、ただ注がれる悦楽に媚びながら肢体をくねらせる。 「はぁ、はっ……、あ、あぁっ」 組み敷かれた手に擦り寄るように指を触れられ、控えめな刺激が擽るように肌を撫でる。 快楽に押し流されては我に返り、まとまらない思考で懸命に言葉を絞り出そうとするも、か細い抵抗では時間稼ぎにもならずに弄ばれる。 「散々構っておいて手放すのか? 俺を」 「あっ、んん……! はぁ、あっ……、なに、いって……」 「そんな薄情な奴だった……? やっぱり、お前も」 独り言のように紡がれる台詞に返答は求められておらず、激しく打ち抜かれる快楽に痺れて追い詰められる。 あらぬ声が零れても止められず、垂れ流すように快感に酔いしれ、劣情に従順になればなる程に強烈な快楽が増していく。 激しく攻め立てられ、漸の心情が見え隠れするような錯覚を受けながらも、真意を汲み取れないままに情欲へと押し流されてしまう。
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