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庇護者 28※

溜め息が零れ、疲れ切った身体は鉛のように重く、今では漸がのし掛かっている。 引き寄せたのは自分だが、こんなにもすんなりと彼が降ってくるとは思わなかった。 「おい……」 掠れた声で呼び掛けるも、覆い被さる青年からは何の応答もなく、つい先程までの凶行が嘘であったかのように大人しくしている。 まさか寝たんじゃねえだろうな、なんて事も過りつつ、このままにされては困るので背中を叩いて漸の動向を窺う。 「ん……。お前、起きてんだろ……。重てえから、そろそろどけ」 寧ろそれよりも、未だ繋がり合ったままなのが気に掛かり、僅かに身動ぐだけでも刺激が走り抜けて息を殺す。 背中を叩く手が、一瞬だけでも縋り付いてしまった事をごまかすように、間髪入れず呼び掛けていく。 「おい……、聞こえてんだろ」 視線を向けるが、顔は見えない。 それでも声を掛けていると、不意に頬へと温もりを感じて何事かと思う。 そうして撫でられているのだと気付いた頃には漸が上体を起こし、無言のまま見下ろす眼差しへと晒される。 「なんだよ……」 視線に耐えかねて声を掛けるも、相変わらず彼からは何の応答もない。 ただ確かめるように頬を撫で、時おり髪へと触れながら寡黙を貫き、一体何を考えているのかが余計に分からなくなってくる。 「何とか言え、んっ……」 言い掛けたところで、それまで無言を貫いていた彼が迫り、口を塞がれて舌が割り込んでくる。 問答無用で組み敷かれ、内部に留まる熱情が再び動き出すと、忘れかけようとした狂おしい程の快楽が大波となって押し寄せてくる。 「ん、んぅっ……」 鼻に掛かった吐息が零れ、口内で絡まり合う舌が淫猥な音を立て、戻りかけた思考が有無を言わさず麻痺させられていく。 逃げ場などなく、敷布へと縫い付けるかのように手を重ねられたまま、耐え難い快楽に自然と甘ったるく酔いしれた声が唇から滑り落ちてしまう。 拒まなければいけないのに、絡み付く舌からもたらされる劣情が退路を絶つ。 気が付けば応え、感じ入るかのように唾液を纏わせ、思考を惑わせながら淫らな音を立てている。 声を掛けたいのに、言葉にならない羅列ばかりが宙を舞い、物静かで有無を言わさぬ行いに翻弄されて底なし沼に嵌まっていく。 唇から離れて首筋に顔をうずめると、今度は口付けを降らせながら舌を這わせ始め、あまりにも甘ったるい空気にどうしていいか分からなくなる。 先程までの不遜な空気から一変し、今はただ確かめるように愛撫を繰り返し、抑えきれない声がまるで蕩けたように滑り落ちる。 「はぁっ……、あ……」 時おり我に返って抵抗しようとするも、力が入らない身体では何の意味も無い。 快楽も重なり、ますます言う事を聞かなくなり、彼の愛撫によってますます深みへと嵌まっていく。 漸は何も紡がず、一つ一つを確かめるように口付けを繰り返し、何を考えているのか分からなくて戸惑いを感じる。 甘やかすかのような行いが、普段の彼からはあまりにも程遠くて、ただ快感だけを与えられる状況にいつまでも慣れない。 声を掛けても、名を呼んでも応答はなく、まるで聞こえていないかのような彼からは悪辣さが削げ落ち、黙々と行為へと及んでいる。 徐々に打ち付けが強まり、貫かれる度に堪えきれない声が溢れ、狂おしい程の快楽に押し流される。 視線を向ければ、表情を変えずとも熱情を孕んでいる事は分かり、彼の額には僅かに汗が滲んでいる。 それだけでも、不思議と身体が昂ぶってしまい、いつも涼しい顔をした漸が次第に呼吸を荒げていく様相に、どうしてか共鳴するかのように情欲が高まっていく。 この世で一番嫌いなはずの相手だ。 許すことも、分かり合うことも出来ないのに、まるで求めているかのように身体を重ねている。

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