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儚き星々 2
芦谷と言葉を交わしながら、何度でもかの青年を思い出してしまう。
今、此処でやきもきと心配していたところで、どうにもならない事は分かっている。
しかし、そうは思っていても止められず、何かの拍子にこうして過らせては、真宮の事ばかり考えてしまっていた。
「それにしても……、落ち着かないですね」
「何がだ」
「彼を送り届けてから此処まで、そう大して歩いていませんよね。それなのに何故か、色んな人に声を掛けられてる気がします……」
「ああ……。まあ、確かにな」
二人きりで歩き始めてから、まだ然程時間は経っていない。
夜の静寂からかけ離れた歓楽街では、日中よりも多くの人で賑わっている。
人の往来も激しいが、そんな中であちらこちらから声を掛けられており、その度にやんわりと身振り手振りで断っていた。
そういえば、摩峰子さんもすごかったな……。
一同に会した時の事を思い出し、芦谷と残っていたところに摩峰子が声を掛けてきたのだ。
自分の店に来ないかと熱烈な誘いを受け、当然ながら芦谷と共に断ったのだが、気が向いたらまずは遊びに来るだけでもいいからと半ば無理矢理に名刺を渡された。
あれくらい強引なところもないと、務まらないんだろうな……。
色々と思うところはありつつ、一度くらいは行かないとダメなんだろうかと少しばかり悩む。
「ねえねえ、お兄さん達。どっか店探してる感じ? いいとこ紹介出来るよ」
過去の情景を思い返していると、どこからともなく呼び止められて我に返る。
「いや……、間に合っているので」
視線を向けると、派手な見た目の男性が歩調を合わせており、滑らかな口調で客を捕まえるべく引き止めてくる。
芦谷は一瞥こそするも、傍らから頻りに声を掛けられても無反応で、まるで聞こえていないかのように構わず歩いている。
「え、どっかもう決めちゃった感じ? 絶対うちのがいいって後悔させないから! 可愛い子も揃ってるよ! てかさ~、二人ともかっこいいっすね! いやうちの奴ら喜ぶな~! もしかしてホストしてる?」
「いえ、違いますよ……。すみませんが、もう帰るところなので……」
「いやいや、そんな事言わずにさ~! 一杯だけでも! それくらいの時間はあるっしょ!」
う~ん……、しつこいな……。
何処までも付いてくる男にうんざりしつつ、どうしたら諦めてくれるのだろうかと考えていると、それまで黙って話を聞いていた芦谷が不意に客引きの胸ぐらを掴む。
「しつけえよ、お前。その気がねえって、見りゃ分かんだろ」
「アレ、怒っちゃった? こんな事くらいで? アンタら顔だけか~!」
尚も男はへらへらと悪びれない様子で、胸ぐらを掴まれても挑発するような言動を繰り返し、芦谷が何も言わずに拳を振りかぶる。
「わ~! 芦谷さん! ちょっと待った! それはダメです!」
芦谷の腕を掴んで制止すると、彼はアッサリと胸ぐらを掴んでいた手を離し、無礼な男を押し退ける。
そうして何事もなかったかのように歩き始めるので、何がなんだか分からない顔をしている男に軽く頭を下げると、芦谷を追い掛けて再び街を突き進んでいく。
び……、びっくりした……、殴るのかと思った……。
「あんな奴に答えてやる必要なんかねえよ」
「本当に殴るかと思ってハラハラしました。芦谷さんに限って、そんなはずないのに……」
「それは……、さあな」
冷静な芦谷に限ってそんなはずはないと声を掛けるも、傍らで悪戯な笑みを浮かべられてどう反応していいか分からなくなる。
アレ……、もしかして真宮さんより手が早いかもしれない……?
冗談か本気か迷う芦谷の微笑みを前に、ひとまず此処を早く抜け出さなければと強く思う。
「お前は何にでも丁寧だな。あんな奴にまで情けをかけてやる必要なんかねえのに」
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