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儚き星々 3
傍らから声を掛けられ、何と言っていいか分からなくなる。
「いえ、そんなつもりは……。ただ、なるべく穏便に済ませたいといいますか、面倒事を避けたいといいますか……」
「俺が面倒事を起こすんじゃないかってハラハラしたか?」
「え、いや、決してそんな事は……。寧ろ芦谷さんのお陰で、早々に切り抜けられたので……」
冷や冷やさせられたのは確かだが、芦谷の毅然とした態度に救われた。
ただ、惜しむらくは先程の客引きを撃退したところで、此処を歩いている限りは次から次へと声を掛けられてしまう事なのだが。
それでもしつこく追い掛けてくるような者は居なかったので、芦谷と歩を進めながら賑やかな街並みを突っ切っていく。
「あの……、聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「その……、今は、以前のように誰かと対立するようなことは……」
「ああ、手当たり次第に喧嘩吹っ掛けるようなことはしてねえかな」
「あ、はは……。察して頂きありがとうございます……」
自ら切り出したものの、伝え方に迷いながら言葉を選んでいたところで、言わんとしている事を察した芦谷があっけらかんと回答する。
気まずさに苦笑いが零れるも、芦谷といえば少しも気にしている様子はなく、自分が知る過去の様相からは一変している。
久しぶりに再会した時も思ったけど、随分と雰囲気が変わったな。
こんなに柔らかい空気を纏える人だとは、少なくともあの頃には思えなかっただろうな。
凜とした佇まいは変わらないが、鋭い棘のような威圧感は失われており、当時に比べてだいぶ人当たりが良くなったように感じる。
「アイツは? 相変わらずか」
「真宮さんの事ですね」
「暫くぶりに会ったが、変わってなかったな」
「そうですね。そうだと思います」
「嬉しそうだな」
「え? 何かおかしな表情してますか、俺……」
「いや、お前らが変わってなくて安心した。たまに思い出したりしてたからな」
「それは嬉しいですね。真宮さんも喜びます」
「アイツには言わなくていい」
「え、どうしてですか。ぜひ、芦谷さんの口から……」
「絶対にいやだ」
人を寄せ付けぬ、記憶に残る姿を思い返していると、芦谷から不意に見知った人物の話題を振られる。
彼の口から真宮の話を聞けるだなんて、とてつもなく貴重に感じる。
端から見れば仲の良い二人だが、きっと彼等はそれを認めないだろう事が目に浮かぶ。
急にそっぽを向く青年を微笑ましく思いながら、もう何度目か分からないが真宮の安否を気遣う。
「そういえば……」
真宮を思い浮かべる傍らで、とてつもなく嫌な事を思い出す。
そうだ、ヒズルに連絡しなければいけないんだった……。
どちらからでもいいが、と言い掛けたヒズルを制して、芦谷と関わらせたくない思いから自分から進んで名乗り出てしまっていた。
芦谷と話をしながらも、ヒズルの事を思い出してしまったせいで会話に集中出来ない。
「どうかしたのか?」
「いえ……、そろそろヒズルに連絡をしておいたほうがいいかと思って」
「そうか、それもそうだな。……大丈夫か、お前」
「何がですか」
「スマホぶっ壊れそうなくらい握り締めて大丈夫か。やっぱり俺から連絡したほうが」
「俺からするので大丈夫です」
平静さを装っていたつもりが、携帯電話を睨み付けながら握り締めていたらしい。
気まずさからか、芦谷が代わりに連絡を入れるべく名乗り出るも、自分がしなければいけないと思っているので断る。
とてつもなく嫌だけれど、調整役のヒズルに連絡を入れる決まりになっているので仕方がない。
「まあ、喋りたい相手ではないよな。お前らにとって」
「残念ながら、色々と因縁もあるので」
「そんな奴らに話を付けてくれたこと、感謝してる」
「え……?」
「俺一人じゃお手上げだったからな。お前らが居てくれて助かった。俺も、出来る限りの事をするつもりだ」
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