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儚き星々 4
真っ直ぐに前を見据えながら歩む芦谷を見て、自分もしっかりしなければと思いを改める。
「あの辺にするか?」
携帯電話を片手に、立ち止まれそうな場所を求めて見回していると、気付いた芦谷も歩きながら辺りへと視線を向ける。
そうして比較的人通りの少ない箇所を指し示され、頷いてから共にそこへ向かっていく。
「ありがとうございます。此処なら少しは落ち着いて話せそうです」
「お前が取り乱すことなんてあるのか?」
「無いと言い切りたいところですが、俺もまだまだ未熟者なので……。芦谷さんに情けないところを見せないように気を付けます」
「別に気を付けなくていいけどな。手が必要なら貸すだけだ」
飲食店の軒先にて佇み、通りを行き交う人波を眺めながら、芦谷と言葉を交わす。
彼からどう思われているのかは分からないが、あまり情けないところは見せたくない。
しかし芦谷は、大した問題ではないとでも言いたげにさらりと紡ぎ、秘められた優しさに気が付く頃には感謝を述べる機会を逃してしまう。
「他の奴らはどうしてるだろうな」
「そうですね……。俺も気になっています」
「怪しい奴が釣れてるといいけどな」
「誰に見つかったかによっては、少し相手に同情しますが……」
「まあ、上手い具合に何処もストッパー役が付いてるからな。そこまで酷ェことにはならねえんじゃねえか」
「なるほど、確かに……。何かが起こりそうになっても、真宮さんや有仁といった具合に、上手く止められるだろう組み合わせになっていますね」
「だろ? お前も上手く止めてくれたしな」
「いえ、俺はそんな大したことは……」
ふ、と笑いかけられて、どう反応するべきか戸惑う。
会話が途切れ、何と言っていいか分からぬままに視線を向け、次の話題を探すかのように心なしか気が急いていく。
そこに、通りを挟んだ向かい側の飲食店にて、軒先で喫煙をしている男性が目に留まる。
「そういえば、芦谷さんて煙草を吸っていませんでしたっけ」
「ああ……、そういえばそうだったな」
視線に気付いた芦谷が顔を向け、同じところを見つめながら口にする。
「すみません。だから何だって話なんですけど……」
「別に構わねえよ。そういえばそんな時もあったなって、俺もすっかり忘れてた」
「それくらいもう、離れていたんですね」
「そうだな……、いつの間にかやめてたな。なんでだろうな」
腕組みをした芦谷が、首を傾げながら考え込む。
彼にとって、そこまで必要な嗜好品ではなかったのだろう事が窺え、身の回りの存在が十分に満たしてくれているのだと感じる。
真宮さんは、何があってもやめないだろうな……。
彼の場合は、ただただ本当に好きなだけなので、有仁でいうケーキのようなものなのだ。
でも流石に風邪引いてる時に吸おうとしていたのは取り上げたな……。
そんな事もあった……。
「さて……、そろそろ電話します」
「ああ、頑張れ」
「応援されてる……」
「スマホぶん投げたくなったらいつでも代わってくれていいぜ」
「ありがとうございます……。そうならないように努力します」
正直自信はないけれど、流石に芦谷の前では表面上だけでも平常心を保っていたい。
こんな事でもなければ登録する事もなかった電話番号を検索し、煌々と明かりを宿す端末にヒズルの名前が現れる。
はあ、と小さく溜め息が零れ、躊躇うかのように親指がなかなか触れずに宙を舞う。
しかし、こうしている時間が勿体ないと思い直し、気は進まないがヒズルに電話を掛ける事にする。
『終わったのか』
心の何処かで出なければいいと望んだが、希望はあっさりと打ち砕かれる。
「無事に送り届けて、今は芦谷さんと一緒にいる」
『そうか。随分と声が強張っているな』
「それはいちいち言うまでもないだろ。それともはっきり言われるのがお好みか」
『悪かった。そう噛み付くな』
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