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儚き星々 9

息を整え、額の汗を拭いながら立ち上がり、未だ交戦中のヒズルと芦谷を見つめる。 手を貸したいが、むやみに割り込めば足を引っ張る可能性もあり、今は二人の様子を黙って見ている事しか出来ない。 視線を向ければ、不安そうに眉根を寄せる女性と、微動だにしない人物が映り込む。 意を決し、厳しい顔つきで歩を進めると、由布と呼ばれていた者へと声を掛ける。 「お前達は、一体何者だ」 近付き過ぎないよう注意を払い、距離を保ったまま由布へと投げ掛けるも、彼が答えてくれる様子はない。 「大丈夫ですか」 由布に険しい表情を浮かべるも、気を取り直して傍らへと声を掛け、一体何があったのだろう痛々しい傷を負う彼女を気遣う。 「今のところはね……。それにしてもアンタ達、何の関係もないのに、どうして……」 「見過ごせるはずがありませんよ」 「ありがとう……」 「一体、何があったんですか?」 「それは……」 彼女が戸惑いの表情を浮かべると、それまで口を閉ざしていた由布が声を上げる。 「お前、まだ自分の立場が分かってねえみてえだな」 「いたっ、離して! そんなもん知るわけないでしょ!」 「おい、やめろ!」 由布が彼女の髪を鷲掴み、乱暴に引っ張ると悲鳴が上がる。 思わず駆け寄ろうとするも、すぐにも手が離れた反動でよろめき、彼女が力なくその場でへたり込む。 「來は、どこ!?」 「知らん」 「そんなわけないでしょ! アンタ達が知らないわけない! 何処にやったのよ!」 戦意を失わない彼女は声を上げ、由布へと鋭い目付きで噛み付くも、彼は端から興味などないかのように目もくれない。 「來……?」 その名前、何処かで……。 立ち上がった彼女が由布の腕にしがみつき、懸命に情報を引き出そうとするも、彼は顔色一つ変えずにあしらい、押し退けられた弾みで再び尻餅を付いてしまう。 「大丈夫ですか!」 今度は駆け寄り、彼女の身体を支えながら声を掛け、由布の動向を慎重に窺う。 そうして脳裏には、一つの疑問が浮かび上がる。 來という名前、何処かで聞いたような気がする。 緊迫した状況の中で必死に頭を働かせ、その名を何処で聞いたのかを思い出そうとする。 不意に視線が芦谷を捉え、ハッとして名を胸中で繰り返すと、彼の弟という存在が浮かび上がる。 まさか、そんな、同一人物だとは限らないが、こんなところで繋がるなんて。 だが、由布の前で情報を漏らすのは危ういような気がして、彼女の言葉には反応を示さないまま身体を気遣う。 彼女の言う來という人物が、以前聞いていた名と同一なら、芦谷さんの弟……? 居ても立ってもいられずに視線を向けるも、芦谷とは距離があり、彼はまだ二井谷と相対している。 こんなところで最大の手掛かりに出会えるなんて、思いもしなかった。 それが手掛かりと決まったわけではないが、ざわめく心が根拠もなしに答えであると喚き立てている。 彼女を気遣いながら共に立ち上がり、何を考えているのか不明な由布から距離を取る。 そうして芦谷を見つめ、彼女の目に映る彼がどう感じられているのかが気になる。 でも、この距離では分からないよな……。 そして何もしてこない由布も薄気味悪く、彼女との距離を取れた事には安堵するも、何を考えているのかが分からず安心は出来ない。 しかし、ひとまずは人質を傍らへと救い出せた事には良しとし、芦谷の様子を窺う事にする。 「あっ! アイツ何やってんだよ! せっかく捕まえた女、取られてんじゃねえかよ! おい、由布~! 仕事しろ~!」 由布から離れた事に気付いたらしい二井谷が声を上げ、指をさして騒いでいる。 だが由布は腕を組んだまま微動だにせず、二井谷の言葉にも興味を示さない。 「あんの野郎、シカトしやがって。なに考えてんだ」 「お前こそ、よそ見していていいのか」

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