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儚き星々 11

二井谷と芦谷、両者一歩も引かず、いつまでも続く戦いのように思われた。 しかし、事態は急変し、何処からともなく無数の足音が刻一刻と近付いてくる。 「まさか……」 咄嗟に身構え、彼女を背後に庇いながら視線を向け、音のする方向へと意識を注ぐ。 奴等の仲間か……? そうであればますます不利になり、流石に無事ではいられないかもしれない。 「やべ……、由布!」 「潮時だな」 暗闇に目を凝らしていると、視界の端で動きがあり、二井谷が声を上げながら由布へと駆け寄っていく。 その他の者共も、一様に手負いで歩きづらそうにしながらも後を追い、高く聳え立つ壁に向かって突き進む。 芦谷が追い掛けようとするも、すぐに思い留まって立ち止まり、急激に撤退していく面々の後ろ姿を見つめている。 一体どうするのかと思えば、無造作に置かれていたゴミ箱を踏み台にして飛び上がり、壁を蹴って頂上に手を掛けると、力任せによじ登って無理矢理に退路を作り出している。 一瞬とも呼べるような刹那の出来事であり、統率の取れた動きに呆気に取られる。 「またな」 二井谷が塀をよじ登り、頂上にて振り返ると、先程まで殴り合っていたとは思えないくらいあっけらかんとした雰囲気で手を上げる。 そうして向こう側へと飛び降り、何事もなかったかのような静寂が流れていく。 「なんだったんだ……」 正直な感想が零れ、ハッとして視線を向ければ、足音の正体がヒズルの周りに集まっている事に気が付く。 ヒズルの仲間……、ヴェルフェの人間だったのか……。 思わずホッとしそうになるも、安堵して良い人間達ではない。 「芦谷さん! 大丈夫ですか」 一難が去り、口許を拭う芦谷の元へと駆け寄ると、彼が小さく頷く。 「思ったより苦戦した。こんなはずじゃなかったんだけどな」 「ひとまずは無事で何よりです」 無傷ではないが、無事を確認出来た事で安心し、ようやく徐々に冷静さを取り戻していく。 「アンタの仲間だったのか。助かった」 芦谷が視線を向け、周囲を見回すヒズルへと声を掛ける。 「逃げ足の速い連中だ」 「ああ。まさかアレを飛び越えるとは思わなかった」 芦谷の言葉と共に皆が視線を向け、そそり立つ壁を見つめる。 並外れた身体能力であり、一体彼等は何者なのであろうか。 二井谷が最後に言い放った「またな」という台詞も気に掛かり、近いうちにまた会う事になるのかと思うと嫌気が差す。 「応援を呼んでいたとは」 「不測の事態に備えてな」 「悔しいが……、今回は助かった」 「いい心がけだな。いつもそれくらい素直ならいいんだが」 「調子に乗るな」 もう用は無いとばかりに散り散りに去って行く増援を尻目に、面白くない気持ちはあれど大いに助けられた結果は無視出来ない。 しかし、だからといってヒズルに信頼を寄せる事はなく、それだけはあってはならない。 出会ってから暫く経つが、未だに彼を理解するのは難しい。 分かろうとも思っていないのだが、一番身近で危険な彼等の動向を探るには、少しは知ろうとしなければいけない事も身に染みている。 手を組んでいるから安全だとは微塵も思っていないが、今のところ彼等に不穏な気配はない。 「あの……、助けてくれて、ありがとう……」 考え事をしていると、どこからともなく遠慮がちに声を掛けられ、彼女に視線が集中する。 「アタシの名前は、莉々香。さっきの奴等は、よく分かんない……」 「よく分かんねえ奴等に、いきなり追われる事なんてあるのか」 莉々香と名乗る女性に、芦谷が尤もな疑問を口にする。 「何から話せばいいか分かんないんだけど、アタシ……、さっきの奴等に売られたっぽくて」 「売られた?」 「うん。はっきり見たわけじゃないけど、アレは明らかにお金だったから」 「何だか……、かなり複雑な事情ですね」

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