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儚き星々 13
「どういう関係なの……?」
瞳の奥に、不安の影が揺らいでいる。
それだけでもう、漸という存在が彼女の心に悪影響を及ぼしている事が窺える。
「難しいですね……。何と説明したらいいのか」
言葉を選ばなくて済むのなら、敵というたった一言で片付けられる。
しかし莉々香や、芦谷を前にしている現状では、多少なりとも慎重にならざるを得ない。
彼等は、漸との関わりを知らないのだから。
だからこそ言葉を選ぼうとするも、脳裏を過る言動の数々に神経を逆撫でされ、今でも容易に当時の怒りを呼び覚ます事が出来る。
本当に最低な男だ。
「仲間ではない、よな……?」
つい考え込んでしまうと、傍らから声を掛けられる。
顔を向ければ芦谷と目が合い、間を持たせる彼なりの気遣いが窺えて申し訳なくなる。
「そうですね。どちらかといえば敵対しています」
「そうなんだ……。ちょっと意外かも……」
「意外、ですか?」
「うん。敵を作るような感じには見えなかったから……。男女関係なく誑かしそうっていうか……、今にして思えばだけどね」
莉々香の言葉に、出会った当初の出来事が思い起こされる。
争いとは縁の無さそうな柔和な佇まいからは、不穏な空気を感じ取る事が出来なかった。
あの時に気が付けていたならば、こうはなっていなかったのだろうか。
大切な人を、守れていたのだろうか。
「彼との関係を、聞いてもいいですか」
「そんな大した話はないよ。顔見知りくらいで、アイツはもうアタシの事なんて忘れちゃってるかも」
「莉々香さんの中では記憶に残っていますか?」
「莉々香でいいよ。そうだね、一度会ったらなかなか忘れられないんじゃない? あんなに綺麗な男、そうそういないって。まあ……、二人もなかなかだけどさ」
そんなに親しい間柄とは思えないが、それでも彼女が標的になってしまった。
それに漸が関わっているのかは分からないが、少なくとも今回が初めてではないように思える。
ヒズルは明らかに何かに気付いている様子だった。
行かせてしまった事を後悔するも、彼が留まったところで情報を引き出せていたかは絶望的であった。
「例の女に、恨まれている事が引っ掛かりますね。被害者は、もしかしたら貴女だけではないのかもしれない」
「アタシも、そう思う。漸に少しでも関わった奴は、皆あの女に目を付けられてるんじゃないかって。貴方達は、平気なの?」
「そうですね……。今のところは特に……、思い当たるような人物は記憶にありません」
「まだ、アイツに見つかってないのかもしれない。でも漸と敵対してるって、めちゃくちゃやばいじゃん。敵なんて尚更、あの女は黙ってないよ……」
かの人物を思い出すように一点を見つめ、悔しそうに顔を歪める。
相当に理不尽で、酷い目に遭わされたのであろう事が窺え、最悪の結末を迎えていたらと思うと想像すら憚られる。
「そろそろ行くか? さっきから一歩も動いてねえぞ」
悍ましい想像が脳裏を過りそうになったところで、芦谷の声によって現実へと引き戻される。
「確かに、そうですね。今度こそ行きましょうか」
早々に此処を立ち去るつもりが、すっかり話し込んでしまっていた。
そうしてふと、彼等が乗り越えていった壁が目に留まり、何者であったのだろうという疑問が湧き上がる。
誰にも答えられず、脅威であるという事実だけが背筋を薄ら寒くさせる。
自分が関わってしまった事で、仲間に影響を及ぼすのではないかと今更な不安が過り、今は考えても仕方が無いと思い改める。
「何処に行くの……?」
「そうですね……。ひとまずは、人がいるところへ。此処は危険ですから」
安全であるという保証は何処にも無かったが、此処に居るよりはまだ気が紛れるだろう。
迷いも、悩みも尽きなかったが、それらを振り払って今は前に進む事だけを考える。
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