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儚き星々 16
腕組みをしながら、聞き分けのいい言葉とは裏腹に、彼女の表情は大層険しい。
分かりやすいな、と苦笑いが零れるも、先程の事を思えば致し方ない状況であり、それは莉々香も重々承知している。
周囲を見渡せば、飲食店の中から視線を向けている者も居り、日常の風景ではない事が窺える。
誰もが足を止めているわけではなかったが、人集りの中心を気に掛けている者は多く、一体何が起こっているのだろうかと思う。
莉々香は此処に居て、喧噪の最中に追っ手が潜んでいるとは考えにくく、わざわざ目立つような振る舞いをするとも思えない。
きっと関係ないのだろう、酔っ払いでもいるのかもしれないと考えるも、どうしても予感めいた不穏な感情が燻っていて、芦谷の行方を目で追ってしまう。
始めは見えていた背中も、人波を掻き分けていくうちにやがて隠れ、いつしか彼が何処に居るのかも分からなくなる。
少し離れたところで見守りながら、時おり周囲を気に掛け、万が一にも怪しい人影が紛れ込んでいないか注意を払う。
「大丈夫かな……。ちょっと遅いよね」
先へと視線を向けたまま、確かに言われてみれば遅いかもしれないと感じる。
人の群れを避けながら突き進む事を考えれば、戻るまでに時間が掛かるのも頷けたが、次第に中心部の状況が気になっていく。
「ねえ、何かあったの?」
気が付けば莉々香が僅かに先を歩き、集まっていた人々に声を掛けている。
それを見て後を追い、共に話を聞けばどうやら誰かが倒れているらしく、詳しい事は分からないという事であった。
「酔っ払いかな……?」
「それならいいんですが……」
それもそれで問題だが、緊急を要する事態に比べれば遙かにいい方であり、どうかそうであってほしいと願ってしまう。
「おい!」
だが、人々の声が重なり合う中で切羽詰まった呼び掛けが聞こえたような気がして、視線を向ければ莉々香と目が合う。
「今のって……」
「芦谷さんの声……」
「やっぱり、そうだよね? 何かあったのかな」
「まさか……」
嫌な予感が背筋を這いずって、弾かれたように人波を掻き分けながら、彼が居るであろう中心を目指して突き進んでいく。
鼓動が脈を打ち、緊張感に苛まれながら群れを押し退け、開けた先には膝を付く芦谷の姿が見える。
「芦谷さん!」
思わず声を掛けると、頼りなげな視線を寄越され、彼の側には誰かが横たわっている。
「え、來……?」
後を追ってきていた莉々香が辿り着き、絞り出された声が名を紡ぎ、痛々しい姿で倒れている青年が本当に彼であるという事が分かってしまう。
「まさか、本当に……?」
理解が追い付かない、急に引き寄せられるようにパズルのピースが埋まっていく感覚に戸惑い、不穏な影を探すかの如く辺りを見回してしまう。
「來! なんで、どうしたの!? しっかりして!」
咄嗟に駆け出した莉々香が咲の隣で膝を付き、來の身体に触れる。
衣服は所々血で汚れ、引っ掛けたように生地が破れており、見ているだけでも痛々しい。
本人に視線を向けると、意識はあるようであり、起き上がろうとする身体を咲が支えている。
どうしてこんなところに、彼もまた奴等から逃げてきたのだろうか。
暗澹とした不安感を拭えず、しかしようやく捜し求めていた存在を見つけられた事は喜ぶべきであり、彼等の元へと近付いていく。
「大丈夫ですか?」
咲に声を掛けるも未だ動揺しているのか、視線が交わるも言葉にならない様子であり、目の前の青年を助け起こす事で精一杯のようであった。
「ひとまず此処から離れましょう」
あまりにも注目を浴び過ぎており、誰が見ているのかも分からない状況から一刻も早く抜け出したくて、手を貸しながら芦谷へと声を掛ける。
しかし、これからどうしたらいいのか分からないのが正直な心情であり、これ以上の騒ぎは避けたい。
一定の距離を保ちながら見守る視線に晒されながら、ふらついた足取りの青年を支えて何とか立ち上がらせる。
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