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儚き星々 20

「來。どうして、あんなところにいた」 咲が問い掛けるも、來からは応答がない。 何故、あんなところで倒れ込んでいたのか、彼に聞きたい事は山ほどある。 しかし青年は、項垂れた様子で一向に口を開かず、足元を見つめたまま心を閉ざしている。 「來、分かる? あたし、莉々香。アンタのお陰で無事だよ……」 扉の前で佇み、静かに見守っていた莉々香が、居ても立ってもいられずに來の前で膝を突く。 來の片腕を掴み、縋るように見上げながら、傷だらけの様相を捉えて辛そうに眉を顰める。 「生きててくれて良かった……。心配したんだからね? 今まで何やってたのよ」 言葉が途切れ、涙ぐむ様子を隠すように顔を背け、青年の足を叩いて思いの丈をぶつける。 すると、それまで人形のようであった男に動きがあり、視線が莉々香へと向けられる。 「アンタ……、無事だったんだな」 「來……?」 「良かった……」 「人の心配してる場合!? ボロボロのくせに!」 ふ、と微笑む表情に感情が宿り、そんな場合ではないのに咲と兄弟である事を不思議と納得してしまう。 初めて会話が成り立ち、莉々香は矢継ぎ早に言葉を投げ掛け、咲はじっと弟の様子を窺っている。 「あの後、何があったの? あいつらに、さっき捕まりそうになって……」 「え……?」 「二人が助けてくれたの……。二人がいなかったら、今度こそ終わりだった」 「兄貴達が……」 「來、何があったか教えてくれ」 莉々香の呼び掛けによって徐々に自我を取り戻した來が、力ない視線を寄越す。 「あいつらを追い返すなんて、流石だな。俺一人じゃ手も足も出なかった」 「厳密に言うと、俺達には加勢がありました。それがなければ、どうなっていたか分かりません」 自嘲気味に呟く青年を見つめ、ヒズルを脳裏に過らせた事を後悔する。 ヒズルがいなければ、どうなっていたか分からない。 己の不甲斐なさを痛感し、ヒズルが現れた事で一瞬でも安堵してしまった自分が許せない。 あの場で芦谷さんが負ける事はないだろうが、数が多すぎた……。 ヒズル無しで切り抜けられる状況を思い浮かべられず、己の無力さに眉を顰める。 事実を述べただけなのに、自分の言葉に傷付けられる。 このままではまだ、あの人の隣には立てない。 「あいつらにボコられて、気ィ失って……。知らないところにいた」 「それで……? 何があったの?」 「それで……」 控え目に言葉を紡ぎながら、一点を見つめたまま動きを止める。 「來……?」 「戻らなきゃ……」 「來? 何て言ったの?」 息をするように紡がれた言葉は掻き消え、誰の耳にも残らない。 「家に帰ろう。來」 來の膝に手を置き、咲が真っ直ぐに彼を見つめる。 「何言って……」 「無理矢理にでも連れ帰る。お前には休息が必要だ」 「は……、万年ふらふらしてる奴が、偉そうに……」 「文句ならいくらでも聞いてやる。お前が無事で良かった。來」 そう言って立ち上がると、何も告げずに部屋から立ち去ってしまう。 心配そうに莉々香から視線を向けられ、頷いてから咲の後を追うべくその場を後にする。 「芦谷さん」 隣室に入ると、背を向ける咲の姿が映り込む。 「どうしました……?」 遠慮がちに言葉を選び、後ろ姿へと語り掛けるも、暫くは応答がなかった。 「見てらんねえよ」 「芦谷さん……?」 「ボコボコで見てらんねえ。今すぐ連れ帰りてえくらいだけど、尚更嫌われるだろうな」 「彼には休息が必要です。そして芦谷さん、貴方も來さんにはなくてはならない存在です」 「それはねえよ。買い被り過ぎだ」 「いいえ、間違いなく來さんには貴方が必要です。そして芦谷さんにも、彼はなくてはならない存在」 「お前は優しいな、ナキツ」 「事実を述べたまでですよ。二人の間に何があったのかは知りませんが、また歩み寄れるはずです」 「簡単に言ってくれるよな」 「ええ、簡単です。お互いに素直になれれば」

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