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儚き星々 21
ふ、と微笑み、咲の背中へと声を掛ける。
「それが一番難しいんだけどな」
「芦谷さんなら大丈夫です」
「お前な……、適当なこと言いやがって」
咲が振り返り、苦笑いを浮かべながら壁に凭れ、小さく溜め息を吐いてから腕組みをする。
「アイツはまだ何か隠してる」
「同感です。彼の身に、一体何があったんでしょう」
テーブルに手を付き、指を滑らせながら机上を見つめ、傷だらけの青年に思いを馳せる。
今や彼も、追われる身であることは間違いないのだろう。
「使えない手駒だと判断されたんだろう」
「莉々香さんの件、ですか」
「ああ。大事な商品を逃がそうなんて、本当にバカだよな。アイツ」
「それにしては、ちょっと嬉しそうですね」
「安心した。アイツが何にも変わってなくて。まだ救いがある」
「來さんが無事で、本当に良かったです」
「ああ、まだ手放しでは喜べないけどな……」
「そうですね……」
由布と二井谷を思い浮かべ、このまま彼等が大人しく引き下がる可能性は限りなく低い。
「また、來さんを狙うでしょうか」
「どうだろうな……。アイツがどこまで不都合な秘密を握っているかにもよる」
「ただ、こうして見逃された事も気になります。自力で逃げられたようには、見えませんでしたから」
「ああ、何か目的があって解放されたようにしか思えない」
「何の為に……、莉々香さんを連れ戻す為でしょうか」
「分からない。そもそも裏切って逃がすような奴が、大人しく言うこと聞くとは思えないしな。別の目的があるのかもしれない」
「彼はまだ、あちら側と切れていないんでしょうか」
追い出されたようにしか見えないが、誰かの意思で動いているなんて有り得るのだろうか。
「薊……」
「え?」
「確か……、前に会った時に、アイツがそう呼んでいた気がする」
「それは、由布と二井谷の仲間なんでしょうか」
「どうだろうな。ただ、信頼しているような口ぶりだった、と思う」
「薊……、か。彼から聞き出すのが一番早いでしょうけど」
「俺じゃお手上げだ。頼んだ、ナキツ」
「ちょ、ダメですよ。芦谷さん」
早々に降りようとする芦谷を引き止めつつ、有力な手掛かりとなるであろう名を胸中で繰り返す。
全ての答えが、彼の中にきっとある。
だが、それを暴くのは容易でなく、素直に教えてくれるとは思えない。
「來さんは一体、何と関わってしまったんでしょう」
「さあな。面倒な連中なのは確かだ」
「そうですね。面倒で、厄介な連中です」
由布と二井谷だけでも、異質さがよく分かった。
ただの寄せ集めでない事も、簡単には倒れない事も嫌という程に理解させられた。
「もう少し、話を聞いてみたほうがいいですね」
「そうだな……。素直に話すとは思えねえけど」
「そこは芦谷さんが頑張るんですよ」
「たまにごり押ししてくるよな、ナキツ」
「背中を押しているだけです」
笑顔で返答をすると、不意に扉が開く音がして、芦谷と共に視線を向ける。
「莉々香さん」
「二人とも此処に居たんだ」
「はい。來さんとは話せましたか?」
「うん。少しね」
莉々香は笑みを浮かべるも、頬には涙の痕があり、気丈に振る舞う姿が今は痛々しい。
安堵と不安が混ざり合い、柔和な表情の先に恐れが透けて見える。
いつまた脅かされるかも分からず、それでも來が戻ってきたことで、此処にいる誰もが希望を見出している。
「あんな目に遭っても、まだ戻りたいみたい」
「戻りたいって、由布や二井谷の元にですか?」
「ちょっと違うかな。何かアイツ、好きな人がいるみたいなんだよね」
そう言われて、咄嗟に芦谷を見る。
確信のある言葉を聞いたわけでもないのに、自然と頭の中には思い浮かべていた。
「薊って、奴のところにか」
「薊? そいつのこと何か知ってるの?」
「いや、何も知らないな」
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