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儚き星々 22

壁に凭れ、伏し目がちに腕組みをしながら咲が、小さく溜め息を吐いて佇んでいる。 気まずい沈黙が流れるも、階下から漏れ聞こえる賑わいにより、肌を刺すような静けさが僅かに和らぐ。 「分からない事だらけですね……」 「ホントにそう。肝心なところは全部はぐらかされた」 机上に両手を付き、脱力するようにこうべを垂れながら、莉々香が落胆するように声を上げる。 「アタシじゃダメみたい。やっぱここはお兄ちゃんじゃないと」 「いや、俺は……」 「そうですね。芦谷さん、もう一度話を聞いてみましょう」 しかし芦谷は、踏ん切りがつかない様子で立ち止まり、複雑な表情を浮かべている。 「アタシはちょっと休ませてもらいま~す!」 一方で莉々香は、椅子を引いてさっさと座り込み、ようやく得られた休息に深く息を吐いている。 「俺が行ったところで、意味ねえと思うぞ」 「そんな事はありません。芦谷さんの気持ちは、ちゃんと來さんに伝わっているはずです」 「そんなに上手くいかねえよ」 「あ、俺はいないほうがいいですよね。二人きりのほうが、きっと話しやすいと思うし……」 「お前も一緒に来い」 有無を言わさず腕を掴まれ、彼が居るであろう部屋の扉に指を掛けると、間髪入れずに開け放つ。 來は、先程までと動揺に腰掛けており、覇気の無い視線が虚空を捉えている。 「來さん、大丈夫ですか? まずは手当を優先したほうが……」 改めて青年を視界に入れ、傷だらけの痛々しい姿に胸が痛み、何か手当出来る物がないかと咄嗟に踵を返そうとする。 しかし、一歩下がったところで服を掴まれた感触があり、背中を押されて咲に阻止された事に気が付く。 「來。由布と二井谷は何者だ。あと、薊ってやつ」 咲が尋ねると、それまで人形のようであった來の瞳に光が宿り、弾かれたように視線を向ける。 「お前は何に首突っ込んでる。そろそろ教えてくれてもいいだろ」 「アンタには関係ない……」 「また薊ってやつのところに戻る気か」 「気安く呼ぶなよ」 噛み付くような視線を向け、頑なに心を閉ざしたまま、咲の言葉を受け入れようとしない。 「あの、來さん」 割り込むのも気が引けたが、牙を剥く青年に柔らかく声を掛けると、彼の前に片膝を突く。 「初めまして。俺は、駿河(するが) ナキツと言います。咲さんとは……、その、友人です」 何と言うべきか一瞬迷うも、個人的な期待を込めて友人と告げる。 芦谷さん……、今どんな顔してるんだろう……。 馴れ馴れしく呼んだ上に勢いで友人扱いされ、背後にいるであろう青年の様子が気になって仕方がない。 「兄貴の……?」 「はい。來さん、無理をさせてすみません。ですが、貴方が頼りなんです。唯一の手掛かりを、貴方が持っている」 困ったように眉尻を下げる表情が、兄に似ている。 やはり兄弟なのだ、と心の中で思い描きながら、來へと慎重に声を掛ける。 「友人がこんなところで何してんだよ」 「貴方を捜していたんですよ、來さん。あの場所にどうして居たのかを覚えていますか」 言葉を選びつつ、丁寧に來へと問い掛けるも、彼の表情からは真意を窺い知れない。 あの時、どうして路上に倒れていたのかを、來はどれくらい覚えているのだろうか。 恐らく報復されたに違いない傷を負い、それでも生かされた理由は何なのだろう。 流石に殺しまではしないだろうと思うも、由布と二井谷を見た後では心が揺らいでしまう。 「薊さんは、貴方にとって大切な人なんですね。身体を休めたら、またそこへ戻るんですか?」 來から返答はなく、悲哀とも、絶望とも感じられる表情を浮かべ、ただ一点を見つめている。 「あの薬は、そいつから貰ったものか」 「何処にやったんだよ」 「さあな、いい加減諦めろ。しつけえぞ」 恨めしそうに睨み付けるも、咲はどこ吹く風でしらを切る。 「俺の言う事なんて聞かねえよな、アンタは」 「それはお互い様だろ」 「アイツを助けてくれた事は感謝してる。俺一人じゃ、逃がすだけで精一杯だったから」 「由布と二井谷、彼等は何者なんですか?」 「よく知らない……」 「來」 「本当に……、知らないんだ。薊さんの事だって、俺は何も……」 膝の上で拳を握り、無知な己を責めるように項垂れる。 嘘を言っているようには思えず、本当に彼等の事を何も知らないのだろうか。

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