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儚き星々 23

「あの薬が、どういう物か知っていますか」 視線の先で、寝台に力なく腰掛けていた來の瞳が、居心地悪そうに落ち着きなく彷徨う。 どうやら何も知らないわけではなさそうだな。 彼の反応から、どういう代物であるのかを理解しているように映り込む。 そうなると、どの程度関わっていたのか……。 売人なんてしていた日には、ヴェルフェに知られたら厄介な事になる。 慎重に頭を働かせながら、困惑する青年の表情を見つめ、感情の機微から少しでも有益な情報を読み解こうとする。 「俺は何も知らない……」 「暴行の道具にされている事も?」 「え……」 「アレは媚薬です。かなり即効性が高く、効果が切れるまで自力で動く事もままならないと聞きます」 思い当たる節があるのか、手を擦りながら視線を逸らし、彼は何も言えないでいる。 「他にもまだ所持しているんですか、來さん」 「兄貴に取られたからねえよ」 「本当に?」 「別に、信じてもらわなくてもいいけど。どうしてえんだよ、アンタらは」 「來さんを」 「助けるって? 何からだよ。俺は望んであの場所にいたんだ」 悲しげな表情を浮かべている事に、彼は気付いているのだろうか。 自分に言い聞かせているように思え、頑なに閉ざされた心はなかなか隙を見せない。 どうしたらいいのか……、でも彼はそこまで深く関わっていないのかもしれない。 だが、そうなると、彼の価値がとても軽いものになってしまう。 軽いということは、彼がどうなっても関知されず、捨て置かれるという事になり得る。 彼は一体、どこまで気が付いているんだろうか。 気付いていて離れられないんだとしたら、彼を納得させるのは骨が折れるかもしれないな。 「莉々香さんを傷付ける場所に、自ら望んで居たんですか?」 「それは……」 「彼女は売られたと言っていました。彼女以外にも、被害者がいるんですか」 「知らねえよ、何も……。あの人らに付いてったのは、あの時が初めてだったし」 「由布と二井谷の二人ですか」 「そうだよ……」 眉間に皺を寄せ、拗ねるように視線を逸らしながらも、淡々と質問に答える。 恐らく彼にとっての地雷は、薊なのだろう。 他の問い掛けには、比較的に労せず答えてくれている。 「莉々香さんを売ったという人物達の事は覚えていますか」 「ああ……、よく知らねえけど……。黒髪の男と、女」 「ヒズルという男を知っていますか」 「ヒズルって……、ヴェルフェの……? て、この人が知ってるわけねえか……」 「漸は、どうですか」 「最近よく聞く名前だな……」 「すみません。さっきから質問ばかりですね」 彼に聞いてばかりいた事に気が付き、いつの間にか強張っていた表情を緩ませる。 まだ、決まったわけじゃない。 だが、例の男女はヒズルに近しい人間という可能性が高い。 漸とも何かしら関わりがあるようであり、つまり相容れない人間という事になる。 「來、これからどうする気だ。家に帰る気はあるのか」 「さあな。でも、アンタも一緒に帰るんなら考えてやってもいい」 突き放しながらも、やはり兄弟だからか、兄と共に帰る気になったのだろうか。 「アンタがいないと始まらないからな……」 「何か言ったか」 「いいや、兄貴と一緒に帰るよ。二人で戻る」 「急に素直になられると気持ち悪いな」 「それもお互い様だな」 僅かに笑顔を浮かべるも、どことなく思い詰めたように感じるのは気のせいだろうか。 彼が何を考え、苦しんでいるのか分からないまま、素直に帰ろうとしている。 良い事のはずなのに、何処か引っ掛かりを覚えるのは、正常な判断なのか。 二人のやり取りを見つめ、咲が何を感じているのかも聞けずに、急速に事態が収まっていく。 二人で帰れるなら、一番いいに決まっている。 どこか釈然としないながらも、何も確証がない。 割り込むわけにもいかずに二人を見つめながら、それでも何故だかスッキリとしないままに焦燥感のような感情が微かに居座っている。 本当に行かせていいのだろうかと。

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