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暗愚の導き手 2
不満そうに騒ぐエンジュを横目に、哀れなナギリの様子を窺う。
伏し目がちに、心細そうに手を擦りながら、落ち着きのない様態で一点を見つめている。
きっと頭の中では、言って良い事と悪い事の選別を懸命に行っているのだろう。
お前が必死に庇ったところで、どうせ憂刃が悪びれもせずに全部吐くぞ。
胸中で語り掛けるも、聞こえるはずのないナギリは叱られた犬のように俯き、言い訳する材料をせっせと探しているらしい。
「その女はどうなった」
「分かりません……。何処かに連れて行かれたようです」
「連れて行った奴に見覚えは」
「ないです。あの時に、初めて会ったので……」
「何か覚えている事はないか」
「覚えていること……。三人組で、黒髪の男が二人と、金髪の男が一人……」
「ハハッ、ゴミみてェな情報だなァ。時間の無駄だろ」
小馬鹿にするような笑い声を上げ、気落ちした様子のナギリへと容赦なく切り返す。
赤髪の青年はますます自信を失い、困惑した表情で言葉を詰まらせると、それきり意気消沈した様子で黙り込んでしまう。
「おい、黙らせてどうする」
「聞くだけ無駄な事しか言ってねえだろうが。クソ野郎詰めたほうが早ェだろ」
「なら今から憂刃を此処に呼ぶか」
「勝手にしろよ。俺は帰るからな」
「安心しろ。此処には呼ばない。そう怖がるな」
「あァッ!? 誰が誰を怖がってるって、テメエコラッ!!」
「馬鹿は放っておいて、もう少し覚えている事はないか」
「テメエは無視すんじゃねェッ!!」
不機嫌に声を荒らげるエンジュを余所に、思い詰めた様子のナギリへと視線を向ける。
金髪の男が引っ掛かるが、そんな奴はあの場に居なかった。
残る二人を黒髪だけで結び付けるのは安易だが、莉々香を追っていたという点では少なからず関わりがあると言っていいだろう。
「名前聞いてねえのかよ、名前」
「聞いてません……」
「か~、つっかえねぇ!」
「名前なんていくらでも偽れるだろう。お前と一緒でな」
「あ~? 知らねえなァ。じゃあ、何も分かんねえって事じゃねえかボケ。テメエはあのクソ野郎の飾りかァッ?」
「うぅ……」
エンジュに責められるナギリは萎縮した様子で項垂れ、ばつが悪そうに眉根を寄せている。
「なら、女の事は知っているか」
「俺はよく覚えていません。でも、憂刃はかなりあの人の事を嫌っていました」
「理由は、聞くまでもないか」
「漸さんです。まあ、察しはつきますよね」
「げ、またお偉方関連かよ。めんどくせェ事はお断りだぜ?」
天を仰いだエンジュが、心底嫌そうに溜め息を吐きながら再び長椅子に寝転がる。
憂刃が暴走する理由なんて、一つしか無い。
アレに陶酔するなんて笑い話にもならないが、本人は哀れな程に真剣そのものだ。
「一応聞くが、漸と女の間に何があった」
「仲良さそうにしてたらしいです」
「出たよ、喋っただけで処刑案件。めんどくせェ~」
「憂刃は大真面目なんです。漸さんの隣に立つ人には厳しいんですよ」
「認められた奴いんのかよ、あのクソ野郎に」
「知っている限りではいません……」
「ほれ見ろ。裏でテメエらがやってる事をアイツが気付いてねえと思ってンのかァ?」
「やっぱり……、全部バレてますよね……?」
「知らねえよ。俺には関係ねえ」
そっぽを向くエンジュに不安がるナギリを見つめ、大した手掛かりは得られなさそうだと区切りをつける。
あの女の言っていた通り、大した事はしていないらしい。
運悪く一緒に居るところを見られてしまったが為に起きた不幸な事件のようだ。
「ところで、そのまま行ったのか」
最初は問われた意味を理解していなかったナギリも、暫しの間を置いてから気が付く。
「あ、変装して行きました。て言っても、俺は髪を黒くしていったくらいなんですけど……」
「アイツはどうだ」
「憂刃は、黒髪のウィッグを被ってました。お人形さんみたいで可愛かったですよ」
「おえ~、嬉しそうな顔してんじゃねえよ気持ち悪ィな」
女……、か。
莉々香が確信しているかのように言っていた理由が分かり、あの華奢な見た目では勘違いもするかと納得する。
「お前達二人でやったのか」
「違います。何人か手伝ってもらいました」
「そうか」
灰皿に吸い殻を押し付けながら、知らないところで今回の件に根深く絡み付いていたらしい事に気が付く。
あの時に見た男達が、全てに繋がっているのか。
取り逃がした事を痛手に感じるも、大人しく捕まるところも想像できない。
取り押さえるのは難しいか、あの状況ではな。
その後の話をナキツから聞く必要性を感じつつ、素直に口を割るとも思えないがと付け加える。
「つか、もしかしてテメエが遭遇した奴等と関わってんのか?」
「珍しく察しがいいな、エンジュ。えらいぞ」
「いちいちムカつく野郎だよなァ、テメエは……」
「ヒズルさんが遭遇したっていうのは……?」
「ああ、正確にはナキツが見つけた」
「ナキツって……、ディアルの」
警戒心を露わに口を開きながら、ナギリが考え込むように顎へと指を添える。
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