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ひとひらの羽根は血に塗れ 4
「そんな大事な情報をバラしちゃっていいわけ?」
真の目的も分からないまま、時間だけが刻々と過ぎていく。
足取りをも掴ませなかった奴等が、今や目の前で暢気に正体を明かしている。
何の為に、と考えてもまとまらず、思い描いたところで結局は全て憶測に過ぎない。
「うん、大丈夫。君の好きにしてくれていい」
「俺の……?」
「そう。全部言ってくれていいよ。もちろん、このまま秘密にしてくれても構わない」
胸の前で掌を合わせながら、薊が柔らかな笑みを湛えて穏やかに声音を響かせる。
主導権を握らせているようで、実際は選択の自由などなければ、薊の気分次第で事態はいくらでも変容する。
刃物を押さえ付ける手に力が入り、衝動を鎮めながら狡猾な男を見上げ、視界の邪魔をしていたフードを取り除く。
「やっとはっきり顔が見えた。やっぱり実物の方が綺麗だね。やつれてるのも、色気があってぞくぞくする」
「いつまで此処に居るつもりだよ」
「アレ、邪魔しちゃったかな?」
「見て分かんねえの? とっくにぶち壊してるだろ」
此処で見聞きした事を、馬鹿正直にヒズルや真宮に打ち明けるなんて有り得ない。
だが、彼等が他言する可能性もあり、どちらに転んでも面倒な事態を招く気がする。
前髪を鷲掴み、苛立った仕草で掻き上げるも、思考には靄がかかったまま一向に晴れない。
「そんな縋るような目で見ないでよ。秘密にしてほしい?」
「随分と都合良く見えるんだな」
「うん、君には嫌われたくないからさ。言う通りにしてあげるよ」
「勝手にしろ。端から信用なんてしてねえ」
溜め息が零れるも、薊は相変わらず笑みを崩さぬまま目前にて佇んでいる。
「あの人って誰?」
「う~ん、それはまだ言えないんだ。ごめんね」
「一方的に押し掛けてきておいて、それはねえんじゃねえの?」
「大丈夫。そのうち分かるから」
「だから答えになってねえんだよ」
嫌気が差すも、彼の答えは変わらない。
時おり視線を向ければ、腕組みをした黒瀧が会話に入る気もなく憮然と佇んでいる。
思考を巡らせて、可能性のある人物を一人一人思い浮かべるも、どれも決め手に欠ける。
「ああ、昔のお客さんでもないからね。もっとずっと、縁の深い人だよ」
「へえ……、そんな事まで知ってんの?」
話せば話す程に薄気味悪く、自分の過去を一体どれだけ握られているのだろう。
夜職の客か、と思い描いた事すら見透かされ、一見すると無害な笑みを貼り付けておきながら不気味な静けさを湛えている。
「そこまで知ってて、俺に何の自由があるって? どうすれば満足するわけ?」
「何もしない。本当だよ。このまま俺達は此処を出るから」
「俺が何もしなくたって、お前らが無事に逃げられるとは限らねえけど」
「それならそれで、面白くていいんじゃないかな」
「しつこい奴が多いからな。簡単にバックレられると思うなよ」
「へえ、意外と仲間の事を信用している?」
仲間、と言われて苛立つも、いちいち言い返す気力も失われている。
しつこくて、諦めの悪い奴等が多いのは事実であるし、自分が何をするまでもなく彼等の元へ直に辿り着くのだろう。
まるで信頼しているかのような言葉に、肌が粟立つ。
「別に好きに言ってくれて構わねえけど。今更失うものなんて何も無い」
「本当に……?」
「しつこい奴」
彼が何を企んでいるかなんて、考えても無駄なのだろう。
酔いも覚めて、鬱屈とした気持ちも晴れてしまい、今では彼等の姿がはっきりと見て取れる。
邪魔をされて不愉快だが、どうにも金糸の青年は、自分に興味があるらしい。
一度手を出してみるべきかと考えるも、恐らく黒瀧が黙ってはいない。
無関心に佇んでいるようで、先程から全く隙を見せず、条件が揃えば容赦なく牙を剥いてくる事が目に見えている。
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