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ひとひらの羽根は血に塗れ 6
「お前な……、もっと分かりやすいところにいろや」
背凭れに身を預け、折りたたみナイフに触れていると、頭上から不機嫌な声がする。
視線を向ければ、卓を挟んだ向かいに真宮が佇んでおり、不愉快そうに眉根を寄せている。
「あれ、マジで来たんだ」
「呼んだのはテメエだろ!」
「だって馬鹿正直に来ると思わねえじゃん。ああ、そういえば真宮ちゃんて馬鹿だった」
「お前なあ……、何様のつもりだよ」
拳を震わせる真宮を余所に、サバイバルナイフの刀身を仕舞うと、再び衣服の物入れへと忍ばせる。
あれから数刻が経ち、薊と黒瀧の存在が嘘であったかのように、目の前には不満そうな真宮が居る。
「まあ、座ってよ」
「どういう状況だよ、コレは。散らかり過ぎだろ」
「真宮ちゃんの部屋よりマシだって」
「これよりだいぶマシだっつうの、見たことあんのかテメエ!」
「うるせえし、騒ぐなって。今度招待してくれる?」
「ゼッテェお断りだ」
「つれないなァ、真宮ちゃんは。つか、そんな遠くに居られたら声が届かねえだろ。馬鹿なの?」
「コイツ……、なんでこんなに偉そうなんだよ」
拳を握り込む真宮を見て、自然と笑みが零れていく。
渋々ながらも近付いて、二人分くらいの空白を開けつつも、彼なりに譲歩してくる。
「本当に真宮ちゃんてお人好し」
「こうでもしねえと話進まねえくせによく言うぜ」
「だいぶ俺のこと分かってきたじゃん。そういうこと」
「それで何の用なんだよ。呼ぶならもっと分かりやすいところにいろ。どんだけ探したと思ってんだ、ココ!」
「ああ、だから時間掛かったんだ。真宮ちゃん来てくれないのかと思って泣きそうだった」
「もっとマシな嘘つけよ」
呆れた様子で溜め息を吐く真宮を見つめ、薊に掛けられた言葉が脳裏を過る。
君の好きにしてくれて構わない、と微笑む金糸の青年を思い浮かべるだけで、鬱屈とした苛立ちが頭をもたげる。
「何かあったのか」
考え事をしていると、傍らから声を掛けられて現実へと引き戻される。
顔を向ければ、真っ直ぐな視線を注がれ、彼なりに何か思うところがあるらしい。
「なに、急に」
「何かお前らしくねえぞ」
「俺らしいって、真宮ちゃんは俺の事をよく知ってるんだね」
「ああ、無理矢理に押し付けられてきたからな。よっぽど切羽詰まってんだろ、今のお前は」
指し示されて、暫し間が空く。
そんなつもりは毛頭無かったが、冷静な彼の言葉に思考がさざ波のような静けさを取り戻していく。
「俺に会うにしては手抜きだしな、その格好も」
「ギャップがいいんじゃねえの?」
「ま、様子がおかしかったからな。お前の」
「俺が……?」
「俺を呼ぶなんてよっぽどなんだろ?」
真っ向から視線を向けられ、どうしてこの男を呼んでしまったのだろうと思う。
微かな変化に気が付いて、横暴な呼び出しに文句を言いながらもきっちり現れる。
あの時の事を思い出そうとしても、何を考えて彼を呼び付けたのか分からない。
深い部分へと招き入れるような事を自らしてしまった後悔と共に、気が緩むような安堵を感じずにいられない。
急に恐ろしくなって、目眩がするような感覚に襲われるも、目の前の現実からは逃げられない。
自らが招いた結果であり、彼は必ず来ると分かっていたはずだ。
どこまでお人好しなんだよ、コイツは。
来てくれた事に安心する心に蓋をして、何があろうとも折れない真っ直ぐな青年が目映く、羨ましく、恐ろしい。
「暇してたから呼んだだけ」
「ああ、そうかよ。別にそれでもいいけどな」
「あんな事されてノコノコ来るなんて馬鹿なの?」
「あんな事したっていう自覚はあるわけだ。少しはマシな性格になってきたか」
「めんどくせえ会話はしたくない」
「はいはい、お前が話したくなるのを待ってやればいいわけだ。めんどくせえのはどっちだよ」
「こんなにムカつく奴だったっけ、真宮ちゃんは」
「お前にだけは言われたくねえ!!」
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