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ひとひらの羽根は血に塗れ 7
大声で喚かれ、煙たそうに思わず耳を塞ぐ。
「そんなにムキになることねえじゃん」
「大事だからな、こういうのは」
「すっかり元気そうじゃん。安心した」
「お前の口から出たとは思えねえ言葉だな。今度はなに企んでんだよ」
「ひどいなァ、真宮ちゃんは。もう少し素直に受け取ってよ」
腕を伸ばして机上を漁り、飲みかけのグラスを手に取ると、口に付けようとする。
しかし、すんでのところで腕を掴まれ、真宮に容器を没収されてしまう。
「なに?」
「コレ、なんだ?」
「さあ、分かんねえ。喉渇いてるから返して」
「顔色悪いんだよなあ、お前。どうせ酒だろ。喉なんか潤うかよ、ちょっと待ってろ」
そう言うと立ち上がり、辺りを見回しながら何処かへと歩いていく。
「何処行ったんだよ、アイツ」
置き去りにされ、真宮が去って行った方を眺めながら、彼の行動が掴めない。
今は何時だろうか、此処に居ると時の流れに鈍感になる。
雑然とした店内でぼんやりしながら、彼の帰りを大人しく待っているしかない。
どういうつもりで真宮を呼んだのか、自分でも分からない。
薊と黒瀧が去り、居心地の悪さを感じながら、気が付けば彼を呼び付けていた。
本当に彼等は消えるつもりなのだろうか、薊と黒瀧がどうなろうと知った事ではないが、素性を握られている状況が気に入らない。
頭の片隅でずっと靄が渦を巻き、どうしたらいいのか自分でも分からない。
「ほらよ」
理解し難い行動の数々を振り返っていると、目の前から聞き慣れた声がする。
顔を上げれば真宮と目が合い、グラスを差し出されていた事にようやく気が付く。
「冷たい」
「水。大人しくそれでも飲んでろ」
「わざわざコレ取りに行ってたの?」
「ぶっ倒れそうな顔してんの分かってねえのかよ、テメエは」
「そんなに顔色悪い?」
「まあな、何があったか言いたくねえならいいけどな」
ふいと視線を逸らし、元居た席に着いて真宮が様子を窺ってくる。
自分ではどんな顔をしているのか分からなかったが、そんなに酷い様相なのだろうか。
鈍い真宮ちゃんが気付くくらいだもんな。
グラスに口を付けると、冷たい水が体内に流れ込んできて心地が良い。
「真宮ちゃんはさァ、何でこんな馬鹿みてえにお人好しなわけ?」
「お前な……」
「うそうそ、ありがと」
「お前……、やっぱ変だな」
「人が素直に礼言ってんのに、何なのお前」
「素直に礼とか言う奴じゃねえからな、お前。何か変なもんでも食ったのか……?」
「礼くらいは言うだろ、俺でも」
「相手によりけりだろ、お前の場合」
深々と溜め息を吐く真宮を余所に、グラスに入っていた水を勢い良く飲み干す。
机上に容器を置き、再び背凭れへと深く身を預け、何をするでもなく天を仰ぐ。
「ねえ、真宮ちゃん」
「あ?」
「あれから何か分かった?」
ぼんやりと天井を眺めながら話し掛けると、一瞬考えるような間が空く。
「お前のほうこそ何か分かったんじゃねえのかよ」
視線を感じて顔を向ければ、何か言いたそうな雰囲気を感じ取る。
「言いたくねえならいいんじゃなかったの?」
「ああ、そう言った」
それきり黙り込んだ真宮が気になり、つい視線を向けて顔色を窺ってしまう。
真っ直ぐに前を見つめ、何事か考えている様子の彼を、暫し大人しく待つ。
「お前がしてきた事は今でも許してねえ。けど、此処にお前を置いていくわけにもいかねえ」
「葛藤してるんだ。優しいね、真宮ちゃん」
「他人事みてえに言ってんじゃねえよ。テメエの事だよ、テメエの」
「ホントお前って、理解できねえわ」
胸中にて燻る想いが何なのか、未だに分からない。
手を伸ばせば明かせそうなのに、遠巻きに見つめながら曖昧にして、答えに向き合う事を拒んでいる。
まるで逃げてるみてえじゃん、と自嘲気味に思い描くも、自分を納得させられるような言葉が見つからない。
コイツは一体何なんだ?
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