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ひとひらの羽根は血に塗れ 9
言って何になる? つうか、俺は何に迷っている?
雑然とした店内で、耳障りな音楽を聞き流しながら、背凭れに寄り掛かって天を仰ぐ。
今夜もまた、愚かな安らぎに身を委ねるだけのつもりが、予定を大幅に狂わされた。
それもこれも全て、招かれざる客が現れたせいであり、渦を巻く不快感の元凶なのだ。
不意に佇んでいた来訪者を思い浮かべ、脳裏へと刻み付けるように言動を思い返す。
薊と黒瀧は主従関係であり、彼等には更に上がいる。
以外には何も分からず、正体も、目的も、己との関係性も不明なまま、気紛れに掻き回して放り出された。
気に入らねえ、とは思うも、不用意に踏み込むのは危険だと、直感的に思い留まらせる。
「おい」
思考の泥濘に嵌まっていると、呼び掛けに気付いた頃には、すでに胸倉を掴まれていた。
「今日のお前は随分とたるんでんな。それとも、舐めてんのか?」
「いきなり何すんの。人がせっかく真面目に考え事してんのに」
「わざと掴まれてやったようには見えねえぞ。他に納得させられる言い訳あんのか?」
隙を突かれ、距離を詰めた真宮が不愉快そうに眉を顰め、鋭い眼差しを向けている。
「なに? ほっとかれて拗ねちゃったの? 可愛いね」
「いつまでもお前に付き合ってやるほど暇じゃねえんだよ、俺は」
「そんなこと言わずにもう少し一緒に居てよ。俺にはお前しかいないんだよね」
「白々しいんだよ、テメエは。反吐が出る」
言葉が切れると同時に、素早く真宮の後頭部を押さえ付け、可愛げの無い唇を奪う。
瞬時に離れようと藻掻くも、こじ開けた口内へと舌をねじ込み、力ずくで蹂躙していく。
対して首筋は柔らかく撫でるとひくりと身体が跳ね、少しずつ抵抗が弱まるのを感じる。
噛み付かれたらたまらないので、考える隙を与えず一気に攻め立て、逃れようとする舌を絡め取って交じり合う。
胸倉を掴む手が、先程から弱まっては奮い立ち、彼の心情を表しているかのようだ。
優しく諭すように首筋を撫でると、ぬるりと舌が容易に入り込み、だらしなく開いた唇から甘ったるい吐息が零れ落ちる。
堪える程に色香が増し、抵抗が弱まる度に舌が絡み付き、くちゅりといやらしく音を立てながら唾液を滴らせる。
彼の反応を窺いながら口付けをしていると、弱りかけていた手に再び意思が宿り、渾身の力で押し退けられる。
「て、めっ……、このバカ……。油断も隙もねえ……」
「俺の前で油断しちゃダメでしょ。いい加減に学ばないとね、真宮ちゃん」
「この野郎……」
「あ、傷付くなあ。そんな嫌そうに拭わないでよ。俺とキスするの嫌いじゃないくせに」
不機嫌そうに手の甲で口許を拭う真宮に、挑発するように眼前で舌先をチラつかせる。
「のこのこと出向いた俺が馬鹿だった」
「元気出してよ、真宮ちゃん」
「お前が言うな!」
「はいはい、ごめんね。もう余計なこと言わねえから」
「なんで機嫌直ってんだよ……」
「え、そうなの?」
「そうなのじゃねえだろ、自分のことだろふざけんな」
拳を震わせる真宮に笑いが込み上げると、彼は尚更機嫌が悪そうに眉根を寄せている。
指摘されるまで気が付かなかったが、言われてみれば幾分か気持ちが和らいでいる。
「お前……」
「なに? スゲエ間抜けな顔してるけど」
「うるせえな。そんな風に笑えんだなって思っただけだ」
「は? 何それ」
驚いた様子の真宮に首を傾げるも、明確な答えを投げ掛けてはもらえない。
「ねえ、それってどういう意味?」
「知るかよ、自分で考えろ」
「あ~、ズリぃ。逃げんのナシ」
「逃げてねえだろ、別に!」
不意に迫れば、真宮は大きく後退し、尚も追い掛けるとやがて体勢を崩して倒れ込む。
「あ~あ。捕まっちゃったね、真宮ちゃん。大人しくしてれば良かったのに」
座面へと背中から倒れ込んだ真宮を見下ろし、満足げな笑みを湛える。
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