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ひとひらの羽根は血に塗れ 11
力強い眼差しで、当たり前のように手を差し伸べられ、身動き出来ないまま視線を向ける。
「俺の話聞いてた……?」
「ああ、却下だ」
「何で真宮ちゃんにそんな権限があるわけ……?」
「お前だって俺の言う事なんか聞かねえだろ。だから、おあいこだ」
「めんどくさ」
顔を背けてぼやくも、彼を引き下がらせる理由にはならず、相変わらず堂々と待ち構えている。
「真宮ちゃんを呼んだのは失敗だった」
「今更後悔しても遅ェんだよ。俺を撒けると思うな」
自信満々に、精悍な顔つきから溌剌とした笑みが零れ、どうやら逃すつもりはないようだ。
どうして彼を呼んでしまったのか、己に問い質しても答えは出ない。
相反する気持ちが衝突して、目前の青年をどうするべきか一層迷いが生じている。
「大人しく帰るって。付いてこないでくれる……?」
「どうだろうな。お前に散々振り回されてきたからな」
「ならいいって。今日のところは見逃してやるから、さっさと消えれば?」
「お前はどこまでえらそうなんだよ……」
真宮と話をしていても、脳裏を駆け巡る雑音が大人しくなる事はない。
自分の声なのか、意思なのか、誰かの言葉なのか、混ざり合う羅列が境界を曖昧にする。
懇願するようで、罵倒するようで、命令するような声色が、頭の中でせめぎ合っている。
こういう時は、泥のように堕ちればいいのだけれど、今はそれを許されていない。
中途半端に酒気を帯び、ただでさえ気分が悪い時に神経を逆撫でされ、その上で余計な思い出まで炙り出された。
真宮を呼び付けたのが間違いであったか、本当のところはよく分からない。
ただ、これ以上一緒にいるのは怖い。
子供のような考えが過り、そんな情けない自分に嘲笑が込み上げる。
「おい、大丈夫か」
「いいって」
徐に立ち上がり、卓と椅子の間を進もうとするも、思うように力が入らない。
ふらついた身体を支えるべく、机上に手を付こうとすると、分かっていたかのように力強く腕を掴まれる。
自力で支えるよりも、余程強固な力によって引き止められ、安心感を得そうになる気持ちを咄嗟に振り払う。
「お前はなんでそうなの?」
「あ? 分かるように言え」
「お前ってホント意味分かんねえし、バカだしキモい」
「は!? ただの悪口じゃねえかよテメぶん殴んぞ!」
知らない、分からない、どうして彼は今も此処にいるのだろう。
自分の本音なんて、いつの頃からかずっと分からないし、興味もない。
どうせ思うようになりはしない。
這い上がるよりも、転がり落ちていく方がずっと簡単で、気楽で苦しみも少ない。
「いつまで手ェ握ってんの?」
「俺がぶん殴るまで逃げねえようにな」
「今殴れば?」
「今のお前ぶん殴っても楽しくねえだろ。避ける気ねえのが見え見えなんだよ」
淵に立ち尽くしていても、強い力で引っ張られているせいで、なかなか落ちる事が出来ない。
「なるほど。リードみてえなもんってわけ? なら最後まで責任持って飼ってくれないと」
「ならテメエも、いい加減に向き合う覚悟を持てよな」
「は……?」
「俺はお前と違って、逃げも隠れもしねえからな。いつでもこうやって立ちはだかってやる」
たから余計な気を起こすなよ、とでも言われているかのようで、意思の強い視線に耐えきれなくて顔を背ける。
今の自分には、簡単に振り解けないであろう事が分かる。
抵抗するのも面倒で、彼に腕を掴まれたまま進み、雑然とした座席から抜け出していく。
「つうか、何でお前一人だったんだ?」
「は? なに今更」
「何人かで飲み食いしたような後だったよな」
「探偵ごっこはやめてくださ~い。探り入れてくる男キモい」
「テメエはさっきからなんなんだよ」
拳を震わせる真宮を余所に、自分が何を言ったかも興味がないまま、出入り口を目指して視線を彷徨わせる。
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