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第184話 優しさと不信感(和樹)
拓真が浴室に消える姿をボ-ッと見ていた。
初めて受けた会社に落ちて、拓真に縋り着いてしまったけど、拓真は優しく励ましてくれた。
拓真は表向きは傲慢で我儘なイメージだけど、心の許した人には優しい。
「来て良かった」
就活で俺が忙しく早く決まりたいと焦っていた事と、本命じゃないからって甘さが出たんだ。
反省してる。
床でまだ横になってボ-ッと考えてると、ソファの下にピンみたいな画鋲?が見えた。
危ないなぁ~と思って手に取ると……片方の小さなピアスだった。
ソファの足元に落ちていたから、気づかなかったのかも知れない。
どうしてピアスがここに?
女の人を部屋に入れたの?
浮気?
小さなピアスを手に握り締め、頭に色んな事が浮かぶ
確かに俺が就活で忙しくしていて、前より頻繁には会えない時が多かった。
でも、それは卒業後の拓真との為に今やらなければならない事で、俺も早く決まりたいと頑張っていた。
ここ最近、合コンや飲み会が多いのは気になっていたけど……煩く言ってウザがれたり「そんな煩ぇ~事言うなら別れる」「縛るな」とか言われるのが怖くって言えなかった……本当は合コンも飲み会も行って欲しく無かった。
だからって俺の就活が終わるまで黙って大人しくしててなんて俺の身勝手な言い分だ。
聞くべき?
でも、はっきり現場を見た訳じゃないし。
もしかして、酔って具合が悪くなって部屋で休ませていただけかも知れないと、殆ど可能性が無さそうだと解ってるけど、そうに違い無いと自分に言い聞かせてる。
そう思い込もうとしていた。
拓真に信じられないのか?って言われるのも……。
そう考えてる所に拓真が浴室から戻って来た。
思わず寝た振りをした。
今、顔を見たら泣き出しそうになる、もしかして問い詰めてしまうかも。
「和樹?寝たのか?」
俺の体を温めた濡れタオルで体を拭いてくれる優しい拓真。
こんな事で絆されるつもりは無いけど…拓真に解らない様にピアスを持った手をギュッと握り締めた。
その内に、本当に眠くなり少し寝たしまった様だ。
起きた時には、拓真が側に居て優しく頭を撫でて居てくれた。
「あっ、拓真」
「起きたか?シャワ-浴びるか?」
「うん」
俺はシャワ-を浴びに浴室に行き、握り締めていた手を開き、そこにあったピアスを服のポケットにしまった
見なかった事にしよう。
拓真を信じよう。
その為にも早く就活終わらせて、拓真と残りの大学生活を楽しむんだ。
落ち込んでる場合じゃない、落ちてもどんどん会社面接して内定貰おう。
気合いを入れる様に熱いシャワ-を浴びた。
その日は拓真も俺も大学を休んで1日一緒に過ごした。
拓真は落ち込んでると思って、俺にいつもより優しく接してくれた。
久し振りに、ゆっくり2人で過ごして嬉しかったし楽しかった。
けど……胸ポケットに入ってるピアスが俺に不吉な予感を感じさせる。
夜ベットで寝る時に、シ-ツは綺麗で安心したけど……枕カバーから化粧品の匂いが微かにしたのは気のせいなのか?
枕に頭を付けたくなくって、拓真の胸に頭を乗せると拓真の方から俺を抱きしめて、寝難い体勢にも関わらず、ずっと抱きしめてくれる。
「和樹、好きだよ。愛してる」
寝る前に聞こえた拓真の言葉。
拓真を信じようと思う……でも心の底では……。
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