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第186話 疑惑?(和樹)
俺は就活が始まる前は5社ぐらいに絞っていたのを、10社ぐらい受けてみようと決めた。
就活を甘く考えてたと、この前落ちた時に思い知ったから。
また暫く面接が続くから、その前に拓真とゆっくりしたいと拓真を誘った。
構内で拓真のアパートに行こうと2人で歩いてると、女の人がこっちに手を振っていた。
俺達の方を見てたけど、俺には心当たりが無い。
拓真?
そう思って居たら、拓真が俺を置いてその女の人の方に歩いて行き、人目が無い場所に連れて行った。
木の陰で、俺からはチラチラと遠目にしか見えないけど、何か言い争ってる感じだった。
何かトラブル?
あの女の人って誰?
もしかして、あのピアスの人?
そんな事を考えてると
「あれ、本郷じゃねぇ?女の子と喧嘩してんの」
「何か本郷って、就活決まってて遊び歩いてるらしいぜ。この間、女とホテル街歩いてるの見た奴いたらしいぜ」
「いいよなぁ。就活決まってて、それにモテる奴って」
「本当.本当」
大学の人だと思うけど、俺以外にも見てた人が俺の横を通り過ぎる時にコソコソ話していた。
ホテル街で見た?
やっぱり浮気?
木の陰から、女の子が走り去って行くのが見えた。
話しは終わったらしい、少し経って拓真が俺の元に戻って来た。
「和樹、悪かった。行こうぜ」
「あっ、うん。いいの?」
「いいの.いいの」
先に歩く拓真の後を追って歩き出した。
拓真は平然と、いつもと変わらない態度で俺に話し掛けてくるけど、俺は……。
疑惑だけが俺の中に広がって、そんな気持ちのまま拓真のアパートに行った。
部屋に入って、拓真と並んでソファに座る。
拓真はさっきの事など無かった様に振る舞うけど……俺は思い切って拓真に聞いてみた。
「ねぇ拓真。さっきの女の子って?」
「ああ、あれな。前に話しただろう、佐々木に頼まれて合コン参加した時の女の1人」
「その合コンの子が、何で大学まで来るの?」
「知らねぇ~。……そう言えば、帰り際に携番のメモ渡されたけど、帰りに直ぐに捨てたから俺から連絡ないから、佐々木に聞いて来たんじゃねぇ~の。いい迷惑だっつ-の」
「そうなんだ。本当に何でも無いんだよね?」
「当たり前だろ! 俺が浮気してると思ってるんだ?」
余りにも堂々とした態度で話す拓真。
「そう言う訳じゃ無いけど……ホテル街で見た人がいるって、噂が……」
「はっ、いつ?……駅までの帰り道でホテル街通る時あったかも」
「そう。…可愛い人だったね」
「そうか?和樹の方が何倍も可愛いけどな。何?和樹、焼きもち?」
「そうかも」
「素直~。可愛い~な」
「もう、おちゃらけ無いでよ。拓真、信じて良いんだよね?」
「当たり前だろ! 俺は和樹が1番好きだ。愛してる」
真剣な顔で言われ、これ以上詮索出来ない。
「俺も拓真が好き。愛してる」
「和樹」
頬に手を当てキスされ額を合わせ
「和樹が1番だ。俺を信じろ! 」
嬉しくって、拓真にキスした。
ソファに押し倒され、服に手を掛け脱がされ首筋から舌を這わせキスされ、俺も流されていた。
なし崩しに始まり、それが拓真の術中にハマっていたとも知らず。
激しいセックスと「和樹、好きだ」と、何度も言う拓真に俺は疑いの気持ちと信じたい気持ちとが鬩ぎ合う。
自分で現場を見たわけじゃない、人の噂に振り回されるのは嫌だ、今は拓真の言葉を……。
それでも俺を何度も求める拓真を信じたい。
この時に流されずにきちんと、俺の疑惑や不安を話し拓真に聞くべきだったと、後になって後悔した。
この時に話し合わなかった事で、拓真から「俺を信用してないのか?信じられないのか?」と言われるのが怖くて、俺からは何も聞けなくなっていってしまった。
それで拓真の方が何も聞かない俺を寂しく不安がっていた事も知らずにいた。
就活が転機になり、俺達の歯車が少しずつ狂い始めつつあった。
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