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第192話 浮気現場?(和樹)

「拓真、帰ってるかな?今日、出掛けるって言ってたけど」 同じ学部の何人かとご飯食べながら、就活の情報交換と進み具合を話して、皆んな今の所俺と似たり寄ったりで一安心した。 皆んなも他の人の話を聞いてそう思ったようで、最後は「もう一踏ん張りだ。お互い頑張ろうぜ」と励まし合い話しは終わった。 皆んなと話して、俺も気晴らしと自分の実になった、行って良かった。 何だか、気持ちも晴れやかになり、拓真に急に会いたくなって、拓真のアパートへ行く為に電車に乗った。 アパートの近くに来て、外から部屋を見ると明かりが漏れていた。 「帰って来てる♪」 携帯を見ると8時過ぎだった。 アパートの階段を登り、悪戯心で部屋のドアを開けて驚かそうと思った。 試しにドアノブを回すと開いていた。 不用心だなぁと思ったけど、そぉっと部屋に入ると玄関に赤いハイヒールが無造作に置いてあった。 凄~く、嫌な予感がした。 玄関でどうしようか?佇(ただず)んでいると、寝室の方から声が漏れ聞こえた。 話してる? 良く聞き耳を立てると、女の人の喘ぎ声がだった。 「ぁあ…そこ…もっと…ぁあん…拓真ぁ…いい」 「んぁ…いい…あん…ぁあ」 嘘! 嘘! 嘘だ! 俺はそれ以上聞きたくなくって、部屋を飛び出した。 駅まで全速力で走り来た電車に飛び乗り、一刻も早くここから去りたかった。 電車は混んでいて、いくつ目かの駅で流れるままに電車を降り、また来た電車に乗った。 頭は真っ白で、今は何にも考えられず女の子の喘ぎ声だけが響いていた。 また人に流されるように駅に降り改札を出た。 知らない街をふらふらと当ても無く歩き、暫く経ってから「ここどこ?」辺りを見回す。 麻布十番? 来たこともない街、誰も俺の事なんか知らない人達。 急に不安になり、その時に前に武史がセレブの人に連れて行かれたバ-で落ち着いた大人の場所があるって言ってた事を思い出した。 確か、麻布十番だったよなぁ~。 俺の事を誰も知らない所で、落ち着いて考えたかった ‘R’moneって言ってたような? 面白い字体で頭に残っていた。 少し迷いながら、人の行き交う街をうる覚えの頭で探した。 やっと見つけた。 ビルの地下に続く薄暗い階段を下り、高そうなドアに開けるのを躊躇って、どうしようかウロウロしていた でも、折角ここまで来たんだもん、もう来る事なんて無いし。 ここなら誰にも邪魔されず考えられると何だか思った 自分の部屋に帰ったら、絶対泣いて考えられないのは解ってたから。 迷ってウロウロしてると上から声を掛けられた。 「何してる?入らないのか?」 威圧的だけど、お腹に響く低く耳に心地良いバリトンの声が聞こえた。 この時が、後々俺の救世主になる人との初めての出会いだった。

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