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第193話 新たな出会い①(海都)

この日は、前々から進めていた商談が上手くいき、俺は1人で祝杯をあげる為に、久し振りに‘R’moneに行くつもりだった。 あの店は、他の発展場とは違いガヤガヤして無く落ち着いて飲めるバ-で俺は気に入ってた。 会員制では無いが、一限さんはなかなか入り辛く、誰かの紹介か一緒に入店するのが多い店で、それなりに社会的地位の高い人やセレブが多いのも魅力の店だ。 ここで交友関係を広げたりする事もある。 大半は身分のしっかりした相手を探す出会いの場でもあるが、俺は相当気に入った相手が居なければそう言う事はしない。 ここでは静かに美味い酒を楽しみに来ている。 「ここで良い。帰りはタクシーで帰るから、じゃあ明日」 「解りました。余り飲み過ぎ無いで下さいね。それでは明日、8時にお迎えに行きます」 「ああ、頼む」 秘書権営業の小早川奏太に釘を刺され、‘R’moneの店が入っているビルの前で車から降りた。 地下に続く階段を降りると、店の入口でウロウロしてる後ろ姿が見え声を掛けた。 「何してる?入らないのか?」 俺の声に振り向くとまだ高校生なのか?どこかまだ子供っぽさが残ってる少年がいた。 背が低く170は無いな、165位か?まだ、成長途中なのかも知れない。 顔は目が大きく鼻と口は小さく可愛い系の男の子だったが、それは服装が男物を着ていたからだが、女物を着てると女の子と間違われるかも知れないと思った。 その大きな目が不安なのか泣き出しそうな目をしていたのが印象的だった。 高校生の子供が何でここに?と思ってると、その少年が口を開いた。 「この店に入りたいけど…」 「ああ、この店は一限さんはお断りだ。誰かの紹介か連れて来て貰わないと入れない。ま、どっちにしろ、高校生は無理だな。子供は早く帰って寝ろよ」 泣き出しそうな目から俺を睨んで 「俺、高校生じゃない! ほら、見て」 鞄から免許証を見せられた。 手に取って確認して驚いた。 これで22才?大学生? 信じられなかったが、写真は本人の物でこれ以上疑うわけにはいかなかった。 「明石和樹か、22才?大学生か?」 俺の手から免許証を奪い鞄に入れ 「解った?歴(れっき)とした大学生!」 ちょっと怒った顔が可愛いかったし、俺もその日は商談も上手くいって気分も良かったから、何となく人にも優しくしたかった。 「そうか、悪かった。それじゃあ、お詫びの印に俺が一緒に入ってやるから、それで許してくれ」 少し拗ねてた顔から、パァ~と明るい顔になり 「いいの?」 「ああ、それじゃ私の後に着いて来なさい」 人前では俺じゃ無く私と呼ぶようにしていた。 「はい」 ‘R’moneの重厚なドアを開け入ると、背後から着いて来てキョロキョロと周りを見渡していた。 こんな大人の店には入るのが初めてなんだろうな。 余りにも場違い過ぎて笑いが漏れた。 「余りキョロキョロしてると田舎者に思われるぞ。あっちのカウンターに座ろう」 「……はい」 俺はいつも来る定位置のカウンターに座ると1つ開けて彼が座った。 カウンターの中からマスターに声を掛けられた。 「お久振りですね?いつもので宜しいですか?」 「ああ、頼む」 何も言わなくとも解るのが良い、ここのマスターの余計な事を言わず仕事に徹してる所も気に入ってる1つだ そのマスターから珍しく話し掛けられた。 「あの…失礼ですが。お連れのお客様は未成年では、ありませんよね?」 小声で話され俺も小声で返した。 「ああ、身分証を確認した。大学生で22才だから大丈夫だ」 「すみません。疑った訳では無いのですが、職業柄、確認しませんと」 恐縮し謝るマスターに俺も同じ様に疑ったぐらいだから「構わない」と返答した。 それからマスターは彼にも注文を聞くと、メニューをジッと見て 「1番安いお酒をお願いします」 俺も驚いたが、マスターも一瞬驚いた顔をしたが直ぐに営業用の顔に戻り「畏まりました」と言い、酒を作りに中に入った。 ‘1番安い酒を‘って、注文するのを初めて聞いた。 面白い。 それから程なくして、俺の好きな酒と彼の安い酒が目の前に置かれ、俺は仕事での祝杯を1人で喜びグビッと飲んだ。 美味い! 俺も彼も話をする事も無く、お互い静かに飲んでいた 彼は静かでそこに居る気配も感じられず、俺も気にしてなかったし、店に入れた事で役目は終わりだと思った。 これが彼との初めての出会いだった。

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