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第194話 新たな出会い②(海都)

「マスター、お代わり」 「はい」 静かに店の中を見回してると、カタッと酒が置かれた 「マスター、金曜日のヴィ-ナス(女神)は、最近来てないのか?」 マスターは苦笑して 「彼は最近来てませんよ。ここだけの話ですが、素敵な彼氏が出来たみたいです。朝倉様、その気があったんですか?」 ここまで饒舌に話すマスターも珍しい。 「そうか、残念だ。いや、私には勿体無い。私は彼を見てるだけで充分だ」 「そうですか。今の彼氏が出来る前でしたら、朝倉様を推そうと思ってましたが」 冗談か本気か解らない顔をして話すマスターだったがこのマスターにそれ程評価されてたとは思わず、心の中では嬉しかった。 「いや、私では役不足です。彼には、幸せになって欲しい。ガ-ドが堅かったマスターのお眼鏡に叶う人なら安心だ。彼は、私達、ここに来る者の癒しですから」 そう話すと、いつも無表情のマスターが少し微笑んだように感じた。 マスターはそのまま何も言わず仕事に戻った。 そうか、素敵な彼氏がヴィ-ナスにも出来たか。 いつも金曜日に店に来て、親しい仲なのか?マスターと友達と楽しそうに話す彼を見てるだけで癒された。 ハ-フなのかクォ-タ-なのか?少し明るい髪色に二重の綺麗な目元と鼻筋が通った程良い高さの鼻.赤い色っぽい唇.白い肌と小さな顔、誰が見ても綺麗だと思うだろう。 品があり仕草も可愛らしく、誰が呼んだのか?いつしか常連の間では ‘金曜日のヴィ-ナス’ と影で呼ぶ様になった。 彼が来る日の金曜日は、彼見たさに暫く通っていた程で、でも声を掛ける訳じゃ無く遠くから彼を見てるだけで充分だった。 自分に自信が無い訳じゃない、逆に、自信はあるが、なぜか?彼を穢してしまうのは憚れた。 本当に、人間って言うより穢れを知らない女神見たいに崇拝していたのは、俺だけじゃ無い。 確か、マスターも友達も「ミキ」って呼んでたな。 可愛いらしい名だ。 もう会う事も無いのか、残念だ。 楽しみの一つを失ったな。 そんな事を飲みながら考えてると、背後から肩を叩かれた。 「久し振りだな?」 常連の1人で、この人も静かに飲むのを楽しむ人だった。 「ああ、仕事が一段落したんで」 「あっちに、何人かいるから飲まないか?」 暫くぶりだ、顔を出すか。 「良いですよ」 カウンターから離れる時にマスターに声を掛け、あっちに席を移す事と一緒に入店した彼を頼むと目で合図した。 マスターもコクッと頷くのを確認して、殆ど気にして無かった彼を見ると、グラスを握り締め静かに声も出さず涙を流していた。 その光景に驚き声を掛けるか迷ったが、そのままそぉっとして置いた。 カウンターから仲間の所に行くまで、彼の静かに涙する横顔が綺麗だったと思った。 守ってやりたくなる様な、なぜか庇護欲が唆られた。 体が小さく子供みたいだからかも知れない。 そう思い込んだ。 暫く常連仲間と話をし、久し振りに楽しく過ごした。 ここに来るだけあって、地位もあり職業柄も良い人達で為になる話が多かった。 1時間程で1度席を外し、カウンターに戻ると彼は既に居なかった。 マスターに「ここに居た彼は?」と聞くと 「少し前に帰られました」 「1人で?」 変な奴に連れて行かれたか?と、なぜかそう思った。 「はい。1人で帰られました」 「そう、マスター、お代わり」 「はい」 静かに涙する彼の綺麗な横顔を思い出していた。 マスターにお代わりを貰い、また仲間の元に戻った。 彼とは、もう会う事も無いだろうとその時思っていた 事実、その後仕事の忙しさと日々の生活で、彼の事は忘れていた。 その彼と、また会う事になるとは思っても居なかった

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