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第209話 浮気確定(和樹)

「和樹~、今日はもう上がって良いぞ。悪かったな、急に1人休んだから頼んだのに、暇だった。これ少しだが持って帰ってくれ」 「大丈夫です。それじゃあ上がらせて貰います。ありがとうございます。頂きますね」 急に呼ばれたバイトは思ったより暇で、10時過ぎに上がる事になった。 バックヤードで着替えながら貰った唐揚げを持って、拓真のアパートに行こうか考えていた。 「唐揚げ貰ったのを口実に行こう。これをツマミに一緒に飲もうかな」 大学の帰り際に拓真が俺を誘いたそうにしてたのも一理あり、そうする事にした。 「すみません。お先に失礼します」 「おう、お疲れ~」 「「お疲れ様です」」 店長と何人かのバイトに挨拶しバイト先を出た。 思い掛けなく早く上がれて、拓真と過ごせるとウキウキとしていた。 唐揚げが入ってる袋を片手に、拓真のアパートの階段を上り部屋の前に着いた。 チャイムを鳴らそうとしたら、ドアが少しだけ開いていた。 不用心だなぁ~と思いながら、ドアに手を掛け玄関に入った。 玄関には、拓真の靴と可愛いサンダルが無造作に投げ散らかっていた。 凄~く嫌な予感と不安が押し寄せる。 「……たくま」 囁く様な声しか出なかった。 寝室の方から声が聞こえた。 「あぁ…ん…もっと…動いてぇ~…ああ」 「もっと腰振れよ! 好きに動けって」 「あん…ぁん…拓真ぁ~…ああ…ん…ふぅ…ん…あぁ…いい…いぃ」 何が起きてるか咄嗟に解った。 頭の中が真っ白になり、見ちゃいけないと警報が鳴り響く。 玄関から寝室の方を覗くと、きちんと閉まって無いドアの隙間から、女の子の裸の上半身だけが見えた。 拓真の姿は見えず、女の子の上半身の裸が上下に揺れ胸もゆさゆさ揺れていた。 ……拓真……と…女の子。 俺は2~3分玄関で立ち竦んでいたと思う。 噂と何となくそうじゃ無いかと思った事があったが、実際に目の前にすると何にも出来ず、そのまま音も出さずに部屋を後にするしか出来なかった。 アパートの階段をフラフラと下り、近くの公園に辿り着いた。 遅い時間の公園は誰も居なかった。 ベンチに座り今見た事……余りのショックで頭が回らない。 何だっけ? 考えたく無いけど、あの光景が目に焼き付けられ離れない。 女の子が髪を振り乱し、裸の上半身.揺れる胸と喘ぎ声 何をしてるか一目瞭然だった。 浮気? 考えなくても浮気だろう。 初めて? 何度め? 俺だけじゃ満足して無い? やはり女の子が良いのか? ショックで考えられない頭が1つ疑問が出ると、どんどん考え出してきたと同時に、目の前の遊具が滲んで見えた。 目から知らず知らず涙が溢れて止まらない。 30分は公園に居たと思うが、ここに居ても仕方ないと重い頭と体で歩き始めた。 自分のアパートに帰ろうか?悩んだが、部屋で1人で居るとさっきの光景を思い出して、また泣いて過ごすと思い武史のアパートに向かった。 ピンポン♪… 「誰?」 部屋の中から武史の声が聞こえ、居てくれた事にホッとした。 「俺。和樹」 「和樹?」 ガチャ… 「どうした?こんな時間に」 「ん…急に、臨時でバイト入ったんだけど暇だったから早く上がる事になって、唐揚げ貰ったから一緒にこれをツマミにして飲もうと思って」 拓真とそう過ごす予定を武史としようと考えた。 ……1人で居たく無いから。 「そうなん。まあ入れよ。泊まって行く?」 「うん。久し振りに、泊まって飲み明かそうかな」 「マジ、久し振りじゃん」 武史の部屋には大学当初は良く来ていたが、拓真と付き合う様になってからはご無沙汰だった。 「相変わらず、本が多いなぁ~」 「まあな」 余り物が無く静かな環境を好む武史らしい部屋だ。 小さなキッチンの冷蔵庫から、ビール缶を2本出して来た。 「珍し~。武史の部屋に酒があるなんて。俺も途中のコンビニで缶チューハイ買ってきたから、それも飲もう」 「たまたま何本かあった。どうした?何かあったのか?」 「えっ、何も無いよ?何か無いと来ちゃダメ?」 「そんな事は無い。和樹なら大歓迎だ」 俺の頭を撫で、本当は何か感じてると思うけど、何も言わずに居てくれる武史に感謝した。 それから俺はさっきの見た事を忘れる様に、わざとはしゃぎ武史と飲み明かした。 飲んで忘れる事何て出来ないのに…。 バイトの帰りに、そのまま自分のアパートに帰れば良かったと後悔していた。 武史が居てくれて良かった。

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