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第211話 優柔不断(和樹)
「失礼します」
俺は就活最後の面接を受けた。
あの拓真のアパートでの浮気現場から、2日後のこの就職試験に全てを委ねていた。
受けた会社は、拓真には話していない遠くの会社だった。
この会社に受かったら、拓真とは別れるつもりだ。
卑怯だけど…黙って大学を出たら…。
就職先も離れ、別々の生活を送ってるうちに忘れる良い機会だと思う。
浮気現場を見て、拓真の事は好きだけど…このまま付き合っていけるか?自信が無くなってた。
拓真の浮気の理由として、一時の気の迷いとか、別れるつもりは無いが遊んでみたかったとか、色々あるだろうけど…。
逆に、この会社が不採用なら受かった第2希望の会社に決めて、拓真が何をしようと俺と別れるつもりが無いなら…それに俺も拓真の事が好きだし別れたく無いのが本音だし……拓真と付き合っていこうと思う。
要は、自分では決められずに神様に委ねた。
はっきり言って、ショックからはまだ吹っ切れていない中での就職面接だったけど、今の自分を精一杯アピールしたつもりだ。
やる事はやった……後は、神様の判断と俺の運命だ。
どんな結果になっても2つに1つで、結果が出た方に賭けてみる事にした。
優柔不断な自分だとは解ってる。
自分の事さえ決められない。
でも、迷う程その位……拓真に自分からは別れるとは言えない。
1週間以内には連絡くれる事になってる。
俺の今後もそれで決まる。
その日は、真っ直ぐに帰りたく無かったからス-ツのまま街をフラフラしようと、代官山で電車を降りた。
洗練された街を歩き高そうな店にもス-ツだからと、堂々と入り店内を物色しまた他の店にと何軒も買う宛ても無いけど見て歩き、1軒の店の前で足を止めた。
ウインドゥには色々な鞄が並べられていた。
「カッコいいなぁ」
高そうな店構えだけど…ちょっとだけ。
買うつもりは全然無かった。
店内にはショルダーバッグ.リュック.セカンドバック.財布.ト-トバックなど、男性向けの鞄を多く取り扱っていた。
レザー遣いの物が多くシックでカッコ良かった。
店内を見て周り、1つのブリ-フバックに目が止まった
「へえ~、今ってビジネスバックもカッコいいんだぁ」
A4サイズの書類.ノ-トPCも入る収納スペースが確保されて、多機能なポケットもある黒のレザーのビジネスバックだ。
「出来る男の人が持ちそう。洗練された都会のビジネスマンって感じ。カッコいい」
他にも茶色や茶x黒.灰色など色も様々で、ナイロン.レザー.レザーx合皮繊維など素材も様々で見るのも楽しかった。
拓真がこのビジネスバックを持って、ス-ツを着て颯爽と歩いてたらカッコいいだろうな。
そう考えたら値段をつい見てしまった。
「うわぁ~高い!」
ビジネスバックがどの位か?は解らないけど、まだ学生の俺には高い値段だ。
3万~7万位と幅広い。
俺が良いなぁ~と思ったビジネスバックは、5万円だった。
手に取り軽さや機能性を確認してると、店長らしき人が説明してきた。
「それ人気有るんですよ。レザー使ってるのに軽いし中も収納たっぷりだしポケットも多いしね。ちょっと高くっても長い期間使うと思えば、何回も安い鞄買うより結局安くなりますよ。レザーも撥水加工もバッチリですし使い勝手が良いバックです。お勧めですよ」
「確かにレザーの割には重く無い」
「これなら中に書類も入る事を考えて作られてますからね。サ-ビスで裏にネ-ム入れますよ」
ネ-ムを入れるって言われて迷う。
「凄く気に入ったんですけど…今、お金持って無くって…また来ても良いですか?」
「構いませんよ。ネ-ム入れるのに少しお時間頂きますから」
「解りました」
お店のカタログと名刺を貰い店を出た。
凄く良かったなぁ~。
拓真が持ってたらカッコいい~。
そうだ、クリスマスプレゼントはこれにしよう。
何にしようか全然考えて無かったし、学生のうちはアクセサリ-も有りだけど社会人になったらそうもいかない。
社会人になっても長く使って貰えるし~。
ちょっと高いけど…就活も終わったし、これから少し時間も出来るからバイト入れれば良い話だ。
拓真の喜ぶ顔を思い浮かべると、俄然テンションも上がってきた。
ここ何日かの沈んだ気持ちが少し晴れた。
この面接で俺の就活は終わる。
どうなるか?後は、神様次第だ。
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