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第212話 また一難(和樹)
「はい、ありがとうございました」
電話を切って、ふう~っと息を吐いた。
「ダメだった…か」
この間、拓真には内緒で受けた会社からで、結果は不採用だった。
俺の心の中は複雑だった。
拓真と離れられる機会だったけど……好きだから離れたくないって気持ちもあった。
……神様が ’好きなら離れるな! 後悔するぞ!’って言われてる気がした。
俺の中でも、どこかで落ちれば良いって無意識に思ってたんだ。
でも…これで俺の気持ちが決まった。
浮気されても…嫌だけど。
女の子なら、まだ我慢出来る…はず。
拓真が1人の子に執着しない限り…遊んでるだけなら……学生のうちだけだと希望を込めて。
拓真から ‘別れよう’ って言われない限り……今だけ我慢すれば、社会人になれば環境も変わるし……。
どっちにしろ、俺からは別れるなんて出来ない。
好きだから……そう好きなんだもん。
結果が解って、俺はそう自分に言い聞かせた。
納得しようとした。
就活が終わって、前から誘われていた達也達とのお疲れ様会を居酒屋でする事になった。
行く事を少し躊躇してたけど、大変だった就活を皆んなと分かち合いたい気持ちと少し気分転換もしたかった。
「皆んな、就活お疲れ~。第1希望受かった者もそうじゃ無かった者もいるけど、皆んな就活は終わった~。今日は飲もうぜ。乾杯~」
「「「「乾杯~」」」」
達也の音頭で始まった飲み会には、俺と俺の学部の人.達也の友達2人の5人だ。
俺も達也の友達とは、達也を通じて立ち話程度には話す間柄で、俺の学部の人も達也とも知り合いらしい。
「はあ~、旨い」
「だよなぁ~、やっと楽に飲める」
「そう言いながら、この間も飲んだじゃねぇ~か」
「お疲れ様会は、何度やっても良い~」
「だな。本当に、こんなに就活大変だとは思わなかった~」
「そりゃ~、一生の仕事の事だもんな。慎重にもなる」
「一生かどうかは解んねぇ~よ。ヘッドハンティングされるかも知んないし~」
「夢、見てろよ」
がははは…
はははは……
就活からの解放で、皆んな明るく会話が弾む。
久し振りに味わうこの感じ。
学生のうちしか味わえない仲間との時間と共に、同じ目的を持って闘った同士って感じで、気心も休まる。
就活の苦労話しや愚痴やら今となっては面白可笑しく話し笑えるが、ここまでくるのには皆んな少なからず大変だった事は話さなくとも解り合えていた。
「就活終わったら、後は、学生生活楽しむだけだなぁ~」
誰かが言った一言に達也が応えた。
「お前、卒論は?終わってる?俺、就活やらで全然手をつけて無いよぉ~」
「えっ、卒論?いつまでだっけ?」
「あ~和樹も忘れてた口?良かったぁ~、俺だけじゃなくって。12月頭に出せば大丈夫だ。あと2ケ月あるし、今から卒論頑張るしか無い。折角、就職決まったのに、卒業出来なきゃ就活頑張った意味無いし」
「そうだよな。俺は就職内定決まって、少しずつ手はつけてるけど、結構大変だぞ」
「マジ~、俺もこれから~」
皆んな口々に ‘これからやる’ って言ってたから、出遅れて無いんだとホッとした。
就活終わって、卒論の事は全然頭に無かった。
就活終わって、これから拓真とすれ違ってた時間を取り戻そうと思ってたのに。
拓真は卒論どうしてるんだろう?
全然、卒論の話しはしてないからな。
そんな事を考えてると、周りでは卒論の話から卒業旅行の話やら就職の際1人暮らしにはお金が掛かるから今から蓄えると、話はどんどん変わっていた。
俺も話に加わりながら、拓真とも卒業旅行したいし、1人暮らしの時に家具も新しいのに変えたいとも思っていた。
使える電化製品は使うけど古い物はこの際新しいのにしたいし、拓真とも卒業旅行行きたいけど、サ-クルの仲間と1泊でも良いから卒業旅行に行きたいなぁ~。
そう考えると、卒論もだしお金も蓄えたいしバイトもしなきゃ~。
拓真とずっと一緒に過ごすのは、クリスマスからにしよう。
2~3ヵ月だけ頑張ろう。
その後は2人で卒業までずっと一緒に居よう。
拓真にも話してみようと思いながら、今日だけは皆んなと解放感に酔い痴れて楽しもう。
就活の後に卒論.バイトと、また拓真との時間が減る事になっていく。
この時は ‘これも拓真と一緒に居る為だ’ ‘神様が好きなら別れるなって言ってる。多少の事は、見ない聞かない振りをするのがお互いの為だ。俺が我慢すれば良い’ そんな風に思っていた。
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